2007/02/11
2009/10/11 (Sun)
月明りに照らされた、丘の上。
そこには、光を受けて淡く輝く、大きな木があった。
白い花は、甘い芳香を放ち、六枚の花弁が、風に誘われるように揺れている。
その木の根元には、光によっては黄金色にも見える、甘栗色の狼が眠っていた。周りや身体には、散った花弁が降り注ぎ、幻想的な風景を生み出している。
そこには、光を受けて淡く輝く、大きな木があった。
白い花は、甘い芳香を放ち、六枚の花弁が、風に誘われるように揺れている。
その木の根元には、光によっては黄金色にも見える、甘栗色の狼が眠っていた。周りや身体には、散った花弁が降り注ぎ、幻想的な風景を生み出している。
「明星(あけぼし)」
いつの間にか、明星と呼ばれた狼の前に、黒衣を纏った男が立っていた。
黒髪に青い瞳。
彼の整った外見は、冷たい印象を与えるが、名前を呼ぶ声は優しく、そこには愛おしいという気持ちが満ちていた。
彼は明星に近付き、その右手が明星の頬に軽く触れると、閉じていた目蓋がゆっくりと開かれ、琥珀色の瞳が現れる。
『・・・・・・昴(すばる)』
乾いた大地に、水が浸み込んでいくように、心地よい声が、辺りに響いた。
明星の声に、目を細めた昴は、優しい手つきで、明星に付いた花弁を落とす。
「・・・おはよう、明星。もう少しで暁だ」
ゆっくりと立ち上がる明星に、彼は微笑みながら告げる。空を見上げれば、確かに東の空が白み始めている。
そのことに一瞬、悲しげな色を琥珀の瞳に浮かべたが、すぐにそれは瞳の奥に消えてしまう。
『今回は、どうでしたか?』
昴に言葉を投げかけながらも、明星の視線は、まだ暗い空へと向けられている。
彼はそれを見ると苦笑し、同じように空へと目を向けた。
「あまり、良くはなかったよ。あの方も何を考えておられるのか・・・」
昴は、深く息を吐き、青い瞳に苦い色を浮かべた。
「我々の存在意義が、崩れてきている。
・・・・・・あの二人が抜けてから、我等の負担は増え、このままでは、役目が全うできない。唯一の救いは、我々が対を持つということか」
自分と明星、そして、消えた二人。
対は、互いが反対の性質を持つことで、安定した力を発揮することが出来るようになるため、その存在は、何よりも大切なものだ。
対は、互いが反対の性質を持つことで、安定した力を発揮することが出来るようになるため、その存在は、何よりも大切なものだ。
「・・・だが、それも、もう限界だ。」
『・・・・・・』
「我は、陰を司るからまだいい。けれど、君はそうもいかないだろう?」
その言葉に、明星は目を伏せた。
彼等の役目は、地上の穢れを取り除くこと。穢れを己が内に取り込み、神に与えられた力でゆっくり浄化していくのだ。
普通であれば、浄化を行っても、身体に影響が出ることはない。
しかし、地上の穢れが増えたことと、他の二人が居なくなったことにより、内の浄化が間に合わず、常に穢れが身体を蝕むようになってしまった。
対の中で、陰を司る昴は、穢れに対する耐性があるが、陽を司る明星は、それが無いため、長く穢れを留めておくと、身体に影響が出てしまう。
現に、明星は夜の間、その大半を眠りに費やさなくては、起き上がることすら出来なくなっていた。
「何故、我等が主は、何も仰らないのか。我が片割れが、こんなににも衰弱しているというのに・・・・・・」
明星は、苛立ちげに呟く昴に視線を向けると、彼の手に額を摺り寄せた。
『・・・神の意思は、誰にも分かりません。ですが、浄化を私たちがやらず、誰がやるのです?主の愛する大地を守ることが、私達の誇りでしょう?それに、貴方にばかり負担をかけることはできません』
「しかし・・・っ!」
『昴・・・・・・私は、まだ大丈夫ですよ。』
「・・・明星」
どこか寂しそうな表情をしている昴に、明星は安心させるように、瞳を和ませる。
『私たちは、互いに替えなど無い対なのでしょう?私は絶対に、貴方を一人になどしません。・・・だから』
――私を、信じて下さい。
信じてくれるのなら、私はそれに答えましょう。貴方のために・・・
私にとっての唯一は、貴方なのだから。
* * *
空を見上げれば、夜の気配は消え去り、今にも朝が訪れようとしていた。
昴は、明星を抱きしめると、微かに笑って腕を離した。
『・・・・・・ああ。もう、時間ですね』
山々の間から朝日が差し込み、明星の身体を包み込むと、その姿は、狼から人へと変わっていた。
腰まで伸びた甘栗色の髪が、コートの裾と共に風に流れ、澄んだ琥珀の瞳は、太陽の光を受けて、きらきらと輝く。
その姿は、凛然としていて、とても美しかった。
朝日を眺めていた明星は、ふと目を閉じ、右手を胸に当てて呟く。
「主が愛せし大地に、祝福と安寧を」
その言葉を受け取るかのように、優しい風が、二人の間を駆け抜けていった。
風が止むと同時に目を開き、後ろに立っていた彼に、笑顔を見せた。
昴は、それに答えるように微笑み、明星と自分の指を絡ませると、二人は目を閉じて、額を合わせる。
それは、二人の儀式。
神に創られた時から続く、存在を認め、心を交わすためのもの。
どれだけの時を経ても、決して変わることのない絆を持つ、二人だけに許された時間だ。
「私の」
「我の」
互いの呼吸と体温、そして鼓動が、自分の中に伝わってくる。
「「片割れに、己が持ちうるすべてを」」
時間も心も命すら、すべてを貴方に
「「捧げよう」」
この命の続く限り――・・・・
二人はゆっくり離れると、互いに微笑み合って、朝日を眺めた。
太陽は世界を照らし、夜の気配は完全に消え去っている。
明星は違和感を感じて、昴を見ると、首を傾げた。
「昴。・・・獣化しないのですか?」
人の姿をとるのは、身体に大きな負担を与えてしまう。
いくら陰の気を持つ昴であろうと、今の状態では、長時間、人の姿をとることは厳しいだろう。
いつもならば、儀式をした後、すぐに狼の姿になるのだが、今日はその様子が見られない。
「・・・昴?」
不安げに再度問いかける明星に、昴は曖昧な笑顔を見せると、照れくさそうに呟いた。
「・・・・・せめて、君が我の傍にいる間は、人の姿でいようと思ってな。そうすれば、君に笑いかけられるし、この手を伸ばすこともできるだろう?」
獣の姿ではそれができないから、と。明星はその言葉に一瞬、キョトンとした顔をして、言葉の意味を理解した途端に、顔がたちまち赤くなった。
「・・・・・・貴方っていう人は・・・」
「ん?どうした、明星」
「・・・なんでもありません」
貴方がそういう人だということは、分かっていましたけど・・・
明星は、心を落ち着かせるように息を吐き、穢れを祓いに行くために、身を翻した。
「明星。・・・気を付けて」
昴が声をかければ、明星は振り返り、柔らかい笑みを浮かべて、彼に言葉を返す。
「行ってきますね、昴」
光の中、互いの視線が交われば、明星は今度こそ役目を果たすために歩き出す。
しばらく、明星の後姿を見つめていた昴は、先ほどまで見せていた笑みを消し、神がいるであろう空を睨み付けた。
* * *
『・・・昴よ。お前が明星を助けたいと思うのならば、お前の覚悟を見せてみよ』
明星を助けてほしいと願い出た昴に、神は厳かに言った。
『私はお前達を創り、人と同じように心を、感情を与えた。あやつ等は、己の対を守るためにその責務から逃れ、私の下を去ったが、私が与えた絆が、どこまで強固なものなのかが見たい』
『・・・・・・』
『今から百と五十の年月を、獣の姿にはならず、人の姿のままで、浄化の苦痛に耐えてみよ』
――それが出来れば、明星を助けてやる。
* * *
唯でさえも、浄化のために力を使い続けている状態の今、人の姿をとることは、身体に掛かる負担と苦痛が大きい。
しかし、大切な対を守るためならば・・・
「・・・耐えて見せよう、明星のために。たとえ、この命が削れようとも――」
深みを増した青い瞳が、強い光を宿して輝く。
そんな昴の髪を、温かい風が僅かに揺らして、通り過ぎた――・・・
それは、誰も知らない
世界の守護者の物語。
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・・・お疲れ様です。
これは春に書いたやつですが、続編が・・・かなり長くて、死ぬかと思いました。
今日やっと書き終わったのですが、趣味丸出しのうえ、最後の方が手抜きになってしまいました・・・
疲れたんです・・・・・・今日だけで10ページくらい書いたので。
目がしょぼしょぼです。
続編の方は、冬辺りに二回に分けて載せようと思います。
そして、来年は戦闘ものを書こうと思います。
今にも倒れそうな今日この頃。
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・・・お疲れ様です。
これは春に書いたやつですが、続編が・・・かなり長くて、死ぬかと思いました。
今日やっと書き終わったのですが、趣味丸出しのうえ、最後の方が手抜きになってしまいました・・・
疲れたんです・・・・・・今日だけで10ページくらい書いたので。
目がしょぼしょぼです。
続編の方は、冬辺りに二回に分けて載せようと思います。
そして、来年は戦闘ものを書こうと思います。
今にも倒れそうな今日この頃。
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