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2007/02/11
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2024/05/01 (Wed)
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2015/02/15 (Sun)

願ったのはささやかな幸せだったはずだ。
決して叶わない夢ではない。

けれど、きっと私には過ぎた願いだったのだろうか。
それが今目の前にある現実。

あなたという名の、世界の終り。

*   *   *

「何故だ・・・っ!何故、あの方を止めなかったっ!!お前になら出来たはずだろう!!」

湧き上がる激情のままに、目の前にいる男を床に引き倒す。
動くと同時に身体のあちこちにある傷が引き攣れ、一番深い腹部の傷が開いたが、そんなことは気にもならない。
今感じるのは、守りたいものを守れなかった自分と、守れるものを守らなかった男への怒り。
ガタガタと窓に風が叩きつけられる音が鳴りやまぬ中、私の荒れ狂う感情を切り捨てるかのような、アイスブルーの瞳がじっと私を見つめる。

「これは、こうするしかなかったのだ。・・・それに、あの方が望まれたことだ」

淡々と告げる男に怒りの炎は煽られるばかりだ。
限りを知らぬ感情が私を支配する。

「・・・な、にがっ!!」

視界の端をちらりと緋色が走る。
制御しきれない力が暴走しようと体内を焼き焦がし、収まりきらぬ炎が溢れているのだ。
それを分かっているはずの男は、熱をもたない瞳を向けるだけ。

「こんな国のために、あの方が責を負う必要はないんだっ!すべては、くだらぬ王族の欲が!そしてっ、それを増長させてしまった我が一族が・・・っ。私など、助けずともよかった!あの方が失われるくらいなら、私がっ」

「黙れ」

その一言で、周りを燃やしていた私の炎が一瞬にして凍りつく。
それと同時に私は男に押し倒され、位置が逆転した。
吐く息さえも白く染め上げる冷気が、男から発せられているのに気づき、私だけでなくこの男も怒りを感じていたと知る。

「お前に言われずとも、責を負うべき者が誰かは分かっている。誰かに責を押し付けるしかできない愚かな王も、あれに従い力を使い、しまいには縁を切っているお前を犠牲にしようとしたお前の一族も、俺は決して許しはしない。本来であれば、あの方を失うようなことがあってはらなない。けれど・・・」

「・・・っ」

白く冷たい男の手が、私の頬についた傷をなでる。
男の冷たい色を灯す瞳に怒りと僅かな熱を見つけて、目を見開いて固まることしかできなかった。
男と私の付き合いは、私が一族に見切りを付け、あの方に忠誠を誓った幼少期から続くが、男の感情が動くところを見たことがなかったのだ。
動揺する私を気にすることなく、男の手は傷を癒すかのように私に触れる。

「あの時、あの方が行かなければ、一族に差し出されたお前がこの国の贄となっていた。あの方も俺も、お前を失うことに耐えられなかった。」

「・・・そんなことっ!あの方に比べれば、私一人の命など!」

「確かに、他の人間ならそう言うだろう。だが、俺たちにとっては、お前という女を犠牲にする選択肢はないんだ!・・・理解しなくていい。だが覚えていろ」

強く鋭い瞳が私を貫く。
こんなことを言い合っている場合ではないのに、男の言葉と視線に心が揺らいでどうしようもない。
私にとってあの方も、この男も己の全てをかけても守りたい存在だから、その思いが納得はできなくても分かってしまう。

「お前を失うくらいなら、俺たちは全てを滅ぼしてやる」

男は、そっと睦言を伝えるように呟くと、冷たい手で視界を視界を遮った。
そうして闇に閉ざされた中で、唇に温かな体温が触れたと思えば、すぐに手は外され男の顔が見えた。

「・・・お前」

「こうしてお前が傷ついていることすら許せないのに、どうして失うかもしれない事態を見過ごすことができる。お前が捕らわれた時点で、あの方は全てを決めた。そして、俺もそれに賛同した」

そうして、あの方が捕らわれ、私はこの男に救出されたということか。
噛みしめた口内に血の味が広がる。
いつ失われるとも知れない、あの方の身を案じて目を閉じる。
昔から私の気持ちをいつも読み取ってしまう男は、私を優しく抱きしめて、耳元で安心しろと告げた。

「忘れたのか、あの方の力はなんだ?お前には聞こえるだろう?あの吹き荒れる風の音が」

「まさか!!この風はあの方の!封じを施されては力は使えないはずなのに」

「お前はあの方を誰だと思ってる。お前の安全を確保できれば、俺たちに適うものはいない。そうだろう?」

そう言って、不敵に笑う男は私に手を差し伸べて、高らかにウタウ。

「では、お前の炎と俺の氷で俺たちの主を迎えにいこうか」

*  *  *

願ったのはあの方に忠誠を誓い、泣きながら微笑んだお前の幸せ。
あの方と2人で守ると誓い、いつも傍で見守っていた。

失望と諦観に蝕まれた俺たちに、願望を抱かせた時から特別な存在になった。
それが今ある俺たちの、現実。

お前という世界の、始まり。

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2014/02/08 (Sat)
波紋が揺れる。
輝きを増した月の反射する銀色の光が、水面に美しい文様を描いては水の中に消えていく。
そこには昼の喧騒など夢であるかのごとく、静寂だけが佇み、人が立てる音がないために、この場にいるのは自分ひとりであると錯覚しそうになる。
しかし、この場にいるのは自分ひとりではなく、美しくも閉ざされた世界に魅入られてしまった存在がいるのだ。
この目の前に湛えられた、水の中に。

ブクブク

水泡が弾ける音がする。
音がする方に目を向ければ、水中の生物が発する泡のように小さな水泡が、水面に触れては弾けて消えていく。

ブクブク

この水泡を生み出す存在は、水に還ろうとでもいうのだろうか。
そのことを否定しようとも、あれが心のどこかでそう思っていることを知っている。
自分はいつも待つだけで、干渉はしないけれど、いつか本当に消えてしまうのではないかと心配になることがある。
そうして、水の生物ではなく陸の生物である人たるお前を、捕まえたいと願うのだ。

ブクブク

この地球にある水のほとんどは海水で、淡水は3%にも満たないという。
その淡水でさえも多くは氷河や氷山というのだから、人が直接利用できる水は貴重なものであるのだろう。
限られた水の中から、お前はこの世界をどう見ているのか。

(きっと、煩わしく思っているのだろう。それでも・・・)

かつてお前は水の中にいるのが美しいと、好きだと言ったが、外の世界も美しいということを知ってほしいと思う。

ゴポポポ

大量に吐き出された水泡。
それが故意であろうと過失であろうと、命を左右することであることは間違いない。
思わず舌打ちし、服が濡れることも気にせず水に飛び込む。
そうして、触れた熱を逃さないように捕まえて、水の世界から引っ張り上げた。

「・・・げほっ、ごほ」

苦しげな呼吸が、お前が地に生きる生き物だと証明する。
お前が想う世界など理解できないし、したいとも思わない。

(お前を奪うかもしれない世界なんて、いらない)

けれど、優しい世界がなければこの生物は弱って死んでしまうのだろう。
世界に奪われずこの手に留めておくにはどうしたらいいのか。

そんな時、ふと、耳に届いたその言葉。

(・・・ああ、お前がそう言うのなら――)

この愛おしい人魚を逃がさないように、足掻いてみせようか。

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”語り水”の「彼」視点です。

何度データが消えたことか・・・・

2013/10/11 (Fri)
――青いなぁ・・・・・・・

どこまでも広がる青い空に、私は目を細めた。

 先月まで熱と湿気を含んでいた風はその面影を無くし、夏が過ぎたことを教えてくれる。少々肌寒いはずだが、それを予想して長袖を羽織ってきたので問題はない。

台風だのなんだのでずっと天気が崩れていたのだが、今日は久しぶりに晴れたので、今まで我慢していた分、衝動的に空が見たくなったのだ。シートを敷いてお気に入りの場所に寝転がる。所々に浮かぶ白い雲は様々な形を模して、青の中を自由に漂っている。

私はそれをぼんやり眺めながら、乾いた風が運んできた匂いを肺いっぱいに吸い込んだ。そうすると夏ではない、秋独特の匂いがして、周りを囲む木が風に揺れてたてる乾燥した音すらも、秋が来たことを感じさせる。

「・・・夏が来たと思ったら、すぐ秋って。早すぎるよ・・・本当に」

 アレか。年をとると時間が早く感じられるというアレなのか。私はまだ世間一般的に若い分類にいるはずなんだけど。

 自分の考えたことに落ち込みつつ、ぐーと背伸びをする。
 文句なしの天気にこのまま寝てしまおうかと考えたところで、ふと淡い紫色が視界に入った。

「あ、アケビ」

 のそりと起き上がってアケビが実っている場所まで行く。見上げてみれば色も淡いし口も裂けていないので、食べるにしてはまだ速いことが見て取れる。

「・・・惜しい、おやつゲットだと思ったのに」

 ほんのりと甘いアケビは、秋ならではの山のおやつだ。アケビの中の種の周りについている白い部分を食べるのだが、ほとんど種なので食べると言うよりは、味を楽しんであとは出すといった感じだと私は思う。種からは油が採れるし、私は食べたことはないが、紫の皮の部分は天ぷらなどにして食べるらしい。

 枝に巻きついたツルに結構な数のアケビが生っているので、もう少ししたらまた来て、家族にお土産として採っていくのもいいかもしれない。クマは危ないが、こういう発見があるから山に来るのは楽しい。

「アケビがこの状態なら、クリとヤマナシもそろそろかな・・・帰りに見て帰ろうっと」

 うきうき気分でシートのところまで戻り、コロンと横になる。
 そうして鳥の鳴き声を聴いていれば、日ごろの喧騒から離れてのんびりすることも必要であると思った。

 


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

一年前の文章をほとんど直さず、打ち切り状態で載せてみました。

この間、友達と話していたんですが、昔の絵や文を見るとその出来に愕然とします。
・・・ああ、全部消してやろうか、と思ってしまうのも仕方がない。
マシな文章が書けるようになりたいなあ。



2012/10/05 (Fri)
水を通して見る光の揺らめきが、私は好きだ。
それは太陽だったり月の光だったりするけれど、刻一刻と変化する光の筋が私が、僅かに溢す気泡と戯れて幻想的な世界を作り出すのだ。
私はその閉じられた世界見たさに息の続く限り水に潜って、優しい揺り篭に体を委ねる。

コポコポ

気泡が大気に溶け込もうと上へと上がっていく。
僅かな光を反射して、頼りなさげに上がっていく。
それが水面に触れた時、その個としての概念は消えるのだろうかと、ふと思う。

コポコポ

揺れる、揺れる。
光も、気泡もゆらゆら揺れては姿を変えていく。
青に白に変わる色。

(このまま、私すらも違うモノへと変わってはしまわないだろうか)

色を変え、姿を変えて、個という概念すらも捨てて。
何かにならないだろうか。
太古に海から陸へと進化していった、生命みたいに。
そう考える自分に思わず笑ってしまい、その拍子に肺に溜めていた空気を溢してしまった。

ゴポポポ

(ああ、息が続かない)

当たり前だ。私は水中の生き物ではない。

(ああ、このまま目を閉じて沈んでしまおうか)

私の好きなものだけを記憶して、優しい世界に沈んでしまいたい。

(ああ、けど・・・)

ジャパンッ

閉じた静かな世界を黒い影が乱す。
たくさんの気泡を纏った影は熱い熱と共に腕を掴んで、私を『外』の世界へと連れ出した。

「・・・げほっ、ごほ」

陸へと引き上げられると、一度に大量の空気が入ってきて苦しさに呼吸が乱れてしまう。
目には涙が浮かび、腕を掴む熱が私の体を支えた。

「・・・つ、き」

滲んだ視界に映るのは、白い月。
夜空を彩る星が霞むほどの光が、私の周りに影を落としている。
水に沈む前は光が弱かったことから、思ったよりも長く水の中にいたらしい。

日が沈んで気温の落ちた風が頬を撫でていき、濡れた体から熱が奪われる。
寒いと思ったときには、寄り添っていた熱に背中から抱きしめられ、体は温もりを求めて自然と隙間を埋めようと動く。

「――お前は、何をやっているんだ」

「あったかいなって思って」

ごそごそ動き、相手の膝の上に横に座る格好で落ち着いた頃、聞きなれた低い声が僅かな振動を介して聞こえてきた。
呆れを含んだ声の主は小さく溜息を吐いて、濡れて頬に張り付く髪をそっと梳いてくれる。
彼の胸に顔を寄せているのでその表情は見えないが、きっと眉間にしわを寄せているくせに優しい目で私を見ているだろう。
何だかんだで自分に甘い彼の表情は、見なくても分かるほど古い付き合いだ。
初めて出会った時も、今日と同じように水中に沈んでいる私を溺れていると勘違いした彼が引っ張り上げたのだ。

(まあ、あの時は昼間だったし、かなり必死だったけど)

いきなり『外』に引き上げられて驚いて目を丸くする私に、「大丈夫か」と鬼気迫る顔で言い、私がわざと沈んでいたのだと分かると「紛らわしいことをするな」と怒鳴られた。
懐かしい思い出に、顔が綻ぶ。
髪を撫でていた彼が私が笑っていることに気付き、拗ねたような雰囲気を出した後、その手で顔を上げさせられて彼と視線が交わる。

「心配したぞ」

「・・・いつものことでしょ」

「確かにそうだが、今日はいつもよりも長かった。お前のことだから、大好きな水の中で死んでしまいたいのかと思ったぞ」

そう言う彼の瞳には心配の色が浮かぶ。
失ってしまうことへの恐れが瞳を揺らし、彼の中の様々な感情が光の中で色を付けていく。
それはまるで閉じた世界の美しさに似ていて、しかし、伝わる熱が違うことを証明する。

「死んでしまいたい、ね。それはちょっと違うなぁ・・・」

水の中では美しさ以外の感覚はなかったのに、『外』はこんなにもたくさんの刺激がある。

「何がだ」

「・・・沈んでしまいたいとは思ったけど、死んでしまいたいとは思ってない」

「それがどう違うのか、俺には分からん」

水に守られた優しい世界。
美しさに満たされ、変化があるようで、ない世界。
そして、『外』の世界にある温もりと私のために揺れる感情。

「わかんなくていいよ。ただ、これだけは覚えていて。私は水の中の閉じた世界が好きだし、沈んでいたいと思うけど――・・・」

(ねぇ、「一番」は私が決めるの)



『――私が生きていたいと思うのは、一番好きなあなたがいる世界』



耳元で囁いたコトバはあなたに届きましたか?

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「彼」の立場からも書いてみたい。

2011/07/22 (Fri)

光を反射する水面。

 風に揺れる若葉。

 移り変わる空。

 そして、鮮やかな宝石。

 物心がついた時から、美しいモノが好きだった。それは、輝きであったり、色彩であったりしたけれど、心を動かすのはどれも自分が持たない「美しさ」を持つモノだったように思う。

 それらが持つ「美しさ」は、色彩一つとってもそれ以外に同じものなどなく、私を魅了してやまなかった。

 何をするでもない。

 ただ、私の前に在って、その存在全てを晒されるだけで、その時の感情の全てを奪われる。

 そこには何の干渉もなく、一つの空間が築かれているかのような感覚すら覚える。

 しかし、最初は目に見える「美しさ」だけを好んでいたが、いつの頃からか目に見えない、音としての「美しさ」をも好むようになった。

 それは、高い音だとか低い音というわけではなくて、言葉の意味だとか音の繋がりといった、使い方一つで変化する「美しさ」。

 言葉の「美しさ」は、人によって紡がれて、自然によって生み出された「美しさ」とは違った〝彩〟を持っている。

 言葉は人が思い、感じていることの全てを音にすることは出来ないけれど、ほんの僅かであっても相手に伝えることが出来る。

 嬉しさや感動、悲しみ、怒り。

 音にした言葉は人を癒し、傷つけるけれど、それも言葉が持つ〝彩〟なのだろう。

「・・・・私はそう考えるのだが、君はどうだね、斎条(さいじょう)君」

「・・・・・・あなたは、いつも突拍子のないことを言い出しますね、綾織(あやおり)先輩」

 いつものように美術室で絵を描いていると、いつものように先輩がやってきて、いつものように突拍子のないことを言い出す日常。

からりと晴れた空に誘われるように開けた窓から流れてくる、草のにおいを含んだ風が、ゆらゆらと白いカーテンを揺らして、油絵具の匂いを少しだけかき消した。

 先輩は不思議な人だ、と私は思う。

 いきなり変なことを言い出すから、学校では少々・・・いや、だいぶオカシナ人だと思われているが、彼の書く文章はとても綺麗で、色がある。

 文章に色があるというのはおかしいかもしれないが、先輩の書いたものを読んでいると見えるのだ。

 淡い青であったり、色鮮やかな黄色であったり、燃えるような深紅が。

 驚くほど多彩なその色に、私は引き込まれずにはいられなかった。

 画家がパレットで色を作り、個性ある絵を描くとするならば、彼は画家でその文章は名画となるだろう。

私は筆をキャンパスに走らせる。

 目に見えない音を拾うように、優しく丁寧に、その調和を崩してしまわないように。

 彼の紡ぐ〝彩〟をカタチにするために。

「君はよい目を持っていると、私は常々思うよ」

 窓側に座っていたはずの先輩の声が、すぐ後ろで聞こえたので、私は驚いて筆を止めた。

 ゆっくりと振り返れば、先輩が描きかけの絵を見て目を細めている。

「君の絵は、本質を描く」

 そう言って伸ばされた指が、絵に触れるか触れないかというところで止まる。

「私が『美しい』と感じた・・・音にした全てが此処にある」

 向けられた言葉が〝彩〟を持つ。

 交わる視線に、震えそうな声を押さえ込んで口を開いた。

「・・・綾織先輩の言葉には、色があります。私はソレを描かずにはいられない。あなたの紡ぐ音を、その〝彩〟をカタチにしたくて仕方がないんです」

 今も、先輩の音を描きたくてしょうがない。

 だけど、彼の瞳に映る色から目を逸らすことも出来ない。

 今日の空のような透き通る青に、穏やかな橙色の――

「・・・・・っ」

「そこまで、視なくてもいいんだが」

 突然大きな手で視界を覆われ、見えなくなった目の代わりに、先輩の苦笑した声が聞こえた。

「・・・視え過ぎるのも困ったものだ。私自身を暴かなくてもいだろうに」

「・・・・・・・すみません」

「まあ、君ならば仕方がないだろう」

 離れた熱を追うように目を開ければ、優しく微笑む先輩が見えた。

 桜のように淡くて、陽だまりみたいに暖かい。

「・・・先輩はずるいです」

「何故?」

「私は先輩といると絵を描かずにはいられない。でも・・・・あなたといると、その色から目を逸らすことができない。もっと、視ていたくなる。もっと、欲しくなる」

 貪欲に求めてしまいそうになる。

「君にそこまで想われるのも、悪い気はしないな」

「・・・・・・そんなことを言えるのも、先輩だけですよ」

 どこかずれている先輩に脱力しながらも、前から気になっていたことを尋ねてみた。

「先輩は将来、小説家になるんですか?」

「・・・そうだな、売れなくてもいいから一冊は出してみたいと思う」

「売れなくてもって・・・先輩が書く本は売れますよ、絶対」

「・・・そうか。なら、表紙は君に頼むとしようかな。――斎条彩(あや)君」

「任せてください。――綾織詠司(えいし)先輩」

 妙に改まった顔を合わせると、次第に笑いを堪え切れなくなって、二人同時に噴き出した。

 そんな私たちの笑い声は、放課後の狭い美術室にしばらく響いていた。

 

 

 巧妙な文章と多彩な色彩の表紙が織り成す、「綾織りの彩」という本が大反響を呼ぶこととなるのは、もう少し先の話。

 

 



綾織先輩の名前を修正(2014.5.10)
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彩月 椿
年齢:
33
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女性
誕生日:
1991/03/29
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学生
趣味:
読書
自己紹介:
自然をこよなく愛し、たまに小説なんかを書くマイペースが自慢な人間です。
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