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2011/01/31 (Mon)

 

深い眠りなどで意識が心の奥底に沈むとき、時たま過去の出来事を思い出すときがある。

私と彼が出会った、遠い昔の出来事を。

 

――・・・・・・。

白く暗い意識の中で、誰かが私を呼んでいる。

その声は優しくて温かくて、〝ナニモナイ〟空っぽな私の意識を、ゆっくりと目覚めへと導いてくれる。

「・・・・・・っ」

声に導かれるままに目覚めてみれば、私を光の洪水が襲った。

目蓋で塞き止められていた光が、一度に目へと流れ込み、その眩しさから何度も瞬きを繰り返す。

「・・・起きたか?」

視力は完全には機能していなかったが、私の近くから聞こえた声に、横になっていた身体を起こして声のした方へと顔を向ける。

ぼんやりとした視界の中で、輝く金と深く美しい蒼が私の意識を強く引いた。

「・・・・・・何か聞きたいことは・・・私が誰だか分かるか?」

私は言われた事を考えてみるが、不思議と意識や気持ちに混乱はない。

私が誰であるか、ここは何処であるかといったことは何一つとして分からなかったけれど、ただ一つのことは識っていた。


「・・・・・・・・・・あ、るじ」

――目の前に在る人が、私の主であるということ、ただ一つだけ。

 主は私の視力が回復するのを確認すると、ゆっくりとした口調で、自分や私のことを語った。

 神である主の役割や世界の現状、私の存在理由、そして「対」の存在。

 主の話は真っ白な私に、色を付けていく。

 私は主が話すことを私という紙に書き連ね、「私」という〝個〟を造り上げる。

「・・・おいで――・・・」

一通り話が終わると、主は私の手を引いて私が寝ていた部屋から出る。

少しよろめきながら、連れられるままに何度も角を曲がり、階段を上って、青や緑で模様が描かれている扉の前に立つと、主は躊躇いもなく扉を開けて中に入っていく。

当然、手を繋がれている私も主と共に部屋へと入り、その背に少し隠れながら部屋の中を見渡す。

部屋にはあまり物がなかったが、その一つひとつには繊細な彫刻が施されていて、落ち着いた雰囲気の部屋によくあっていた。

しかし、基本的に青色のもので統一されている所為か、私はこの部屋がどこか寂しく感じた。

ふと、部屋の奥に目を向けると、窓の近くに置かれた椅子に、こちらに背を向けるようにして子供が座っている。

時折、風で青いカーテンが揺れ、子供の顔に影を作る。

子供は主が部屋に入ってきたことにも気付かず、ずっと窓の外を眺めたままだ。

私はどうしていいか分からずに、立ち止まったままの主を仰ぎ見た。

主は私の視線に僅かに微笑み、私の手を握っていない方の手で風を切るような動作を行う。

――ザァアア

 主の手が止まると同時に、開けられていた窓から突風が吹き込み、カーテンと子供の紺青の髪を乱した。

 子供は乱れた髪を直さないまま立ち上がり、緩慢な動きで感情の灯らない瞳を主に向けた。

「・・・・・・お前の「対」を連れてきた」

主が私の肩を押して前に出すと、少年の目が私を見据え、私と彼の視線が絡まる。

「・・・あ、のっ」

 私は困惑していた。

 目覚め、何も分からなかった時でさえも、ここまで感情が乱れることはなかった。

 目が合わさった瞬間、自分では分からない、どうすることも出来ない感情が溢れ、無意識のうちに涙を流していた。

 それは向かい合う彼も同じようで、困惑しながらも、青い瞳からは止めどなく涙が溢れている。

 主はそんな私達を見て、そっと私の背を押しながら耳元で囁いた。

「・・・・・・行きなさい」

 主の言葉に、訳がわからないまま一歩足を踏み出すと、それを見た少年も歩き出し、お互いの距離が次第に短くなる。

 手を伸ばせば届く位置まで来ると、互いに足を止め、それぞれの瞳を見つめる。

 彼との距離が短くなればなるほど、知らない感情が溢れて苦しくなるが、彼から離れたいという気持ちは起きず、寧ろ近付きたい、触れたいと思ってしまう。

 しかし、触れたいと思っても身体が動かず、声をかけようとしても何を言えばいいのか分からないため、結局黙り込む。


「「・・・・・・・・」」

 どちらも動かず、声も発しないままの状態が続く中、最初に動いたのは彼だった。

「・・・・・・・・・・」

「・・・・・あ」

 彼の綺麗な指が私の涙が流れ続ける頬に触れ、涙が流れるたびに、何度も何度も繰り返し、優しく拭われる。

 私は頬に触れる彼の体温に安心して、その手を包み込むように自分の手を添え、目に付いた彼の乱れたままの髪を撫でて直した。

「・・・・・・っ」

 そのまま髪を撫で付けていると、いきなり髪を撫でていた腕を掴まれ、彼の方へ引き寄せられる。

 突然のことに、私は驚き目を見張って、彼を見上げようとしたが、私よりも背が高い彼に抱きこまれていたため、身体を動かすことが出来ない。

 彼の腕の中にいるというだけで、私が私でないかのように身体が言うことを利かず、感情も追い付いていかなかった。

それでも、彼から伝わる体温と聞こえてくる鼓動が、私に安心感と温かさを与えてくれる。

私は彼に触れたことで、主が言っていた「対」の意味が分かった気がした。

魂の片割れと言っていいほど、心の深いところで繋がりを持ち、互いがいることで、力と存在、そして心を安定させる。

愛おしく大切で、何があっても絶対に失いたくないと思わせる存在。

「対」に出会い、その熱に触れた瞬間から、感情が生まれ、それを自覚するのだ。

それは、彼も同じだったのだろう。

最初は曖昧で、明確な意思がなかった瞳に、今は思わず息を呑むほど鮮やかな青を宿らせていた。

「我は、昴(すばる)。君は名を何という?」

 優しくて思っていたよりも低い声が、すぐ近くで聞こえる。

 その彼の包み込むような声音に聞き惚れて、私が反応できないでいると、昴は少しだけ身体を離して私を見つめた。

 ゆらゆらと炎が揺らめくような瞳で見つめられ、私は熱に侵されたように口を開いた。

「・・・・・・私は・・・明星(あけぼし)」

 そっと自分の名前を囁けば、彼は私の名前を繰り返して、蕩けるような微笑を浮かべた。

私達は主に与えられた名前を互いに呼び合い、湧き上がってくる感情を瞳に灯して、相手を見つめ続ける。

「・・・これから、我と共にいてくれるか?」

 彼の言葉に、私は微笑を返す。

「勿論です。・・・いつまでも共に」

 そうして、自然と私達は互いの指を絡め、額を合わせて静かに目を閉じる。

「「・・・ここに誓いを」」

 彼と共にあることを願いながら、私は彼の存在だけを感じていた。

 主はそんな私達を優しく、そして少し寂しそうに見ていることも知らずに。

 

 ――それから、私達は白麗と黒醒に出会って、神の意思のままに壊れかけた世界へと降り立ったのだ。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「暁月夜」の過去編です。
微妙すぎて泣けますが、気にしたら終わりだと思います(笑)
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自然をこよなく愛し、たまに小説なんかを書くマイペースが自慢な人間です。
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