2007/02/11
2010/11/05 (Fri)
導きの光が灯る。
どんなに求めても見つけることが出来なかった光が
今、その輝きを見せる――
* * *
願ったことがある。
鎖に繋がれた闇の中で寒さに震え、ただ訪れるであろう終わりを待っていた。
人々が、異形の姿を持つ自分を閉じ込めたのは当然のことだったのかもしれない。
けれど、どんなに姿が異なっていても、人が持たない力を持っていたとしても、人を傷つけたことなどなかった。
仕方がないと思う自分と、何故閉じ込められなければならないと思う自分とが、身体の内で渦巻いているのを感じる。
憎しみに任せてここを出ることはできたけれど、それは少なからず人を傷つけることになると分かっていたからこそ、黙って鎖に繋がれ、身を侵す寒さに耐えていた。
(寒い・・・・・・)
吐く息が白く染まる。
食事も取らず、寒さの中に身を置いていたせいで身体が重く、腕を動かすのも辛い。
まるで、感覚が遠くに行ってしまったような、定まらない思考の中でふと、光が見たいと思った。
ここに閉じ込められてから、光を、空を見ていない。
今の季節ならば、澄んだ青空が見えるだろう。
(――ああ、また、あの光を・・・空を見る事ができるだろうか・・・・・・・)
一度願ってしまえば、もうそれしか考えることが出来なかった。
どこまでも広がる空。
季節と時間によって色が変わり、いろんな色を見せてくれる。
風に揺られてずっと眺めていた。
ずっと・・・ずっと・・・愛おしいあの子と――
(あの子は・・・寂しい思いをしていないだろうか・・・・・・・痛い思いはしていないだろうか)
愛おしい人の子。
異形の自分を綺麗だと言ってくれた、守るべき子。
空のようにくるくると表情を変えて、色んな感情を教えてくれた子。
もう、会うことはできないだろうけど・・・・・・
(幸せであってほしい)
人であるあの子は、きっと自分のようにならないから。
異形にかどわかされた子として保護されるだろう。
だから、自分はこの暖かい気持ちを抱いたまま、このまま朽ちてしまえばいい。
そうすれば、魂が魔に堕ちることはないし、あの子に迷惑が掛かることもない。
(・・・けれど、やはり・・・・・・・・)
――お前とまた、空を見たいと願ってしまうよ・・・・・・
『カタッ』
闇に落ちかけた意識が、小さな音に引きあがられる。
『・・・カタ、カカ・・・・・・ガタン』
少ない力を振り絞って、音のする方へと顔を向ける。
小さかった音は次第に大きくなり、僅かな時間の後、闇に慣れていた目を光が焼いた。
「・・・っ」
白く染まる視界の端で、何かが動くのが分かった。
その気配は間違えるはずのない・・・愛おしいあの子のもので、唇が震える。
(・・・そんな、そんなはずが――)
もとに戻らない視界がもどかしい。
軽い足音はゆっくりと近付いてきて、自分のすぐ傍で止まった。
しゃがんだのかふわりとした風を感じた後、暖かい温もりが頬に触れた。
今、自分の顔はきっと情けなく歪んでいるだろう。
その暖かさも風が運んできた香りも、もう感じることが出来ないと思っていたから。
「――・・・・・・・みー」
「・・・・・か・・・ざ、ね」
軟らかい声で、あの子だけが使う自分の愛称が呼ばれる。
頭を抱きかかえられた状態で見上げれば、光に慣れてきた瞳にはぼんやりと愛おしい姿が見えた。
力の入らない腕をゆっくりと上げ、その赤みを帯びた頬に添えてあの子の名を呼ぶ。
自分と一緒にいては危険なのに、見つかったら何をされるか分からないのに、この温もりを放したくない。
愛おしい・・・愛おしい、大切な子。
その艶やかな黒髪も、濡れた黒曜石の瞳も・・・何一つ変わっていない。
知らず知らず詰めていた息を吐き出す。
「・・・みー、かえろ・・・・・」
風音は体温を移すように、優しく抱きしめてくる。
その暖かさに身を任せてしまいそうになりながら、風音を自分から離すためにかすれた声を出す。
「駄目・・だ。・・・・・・誰かに見つかる前に「いかないっ!」」
「みーいない、さみしい・・・・・・そら、みても、たのしくない。みーここにいるなら・・・・わたしも、いる」
今まで、一度も声を荒げたことのない風音が、自分の言葉を遮り、抱きしめる力を強めたことに驚いた。
けれど、風音の吐く息も白く、外気と自分の体温で彼女自身の体温も下がりつつある。
異形の自分はまだしも、人である風音は長くは持たない。
「・・・風音、お前は・・・・人の子だ。俺とは、違う」
「ちがわない・・・・ちがわない・・・・・・みーといっしょ」
「・・・・・違うんだよ。お前と、俺は違う・・・お前は人の子だから、人の中で、生きていける。俺は・・・・異形だからここにいるのは仕方が・・・・ないことなんだ」
「みー、なにもしてない・・・わるいこと、してない。そのはねも、かみも、そらのいろのめもきれい・・・なのに、こんなところに、みーをとじこめるヒトなんて、きらい・・・・・きらいっ」
風音はぼろぼろと涙を零して、片言な言葉を紡ぐ。
人への感情に憎悪を抱いてしまったのか、壊れたように「嫌い」を繰り返す。
(・・・・愛おしい、人の子・・・風音・・・・・・・)
人の子であるこの子に、人が嫌いだと言わせたくはなかった。
それでも、その言葉を嬉しいと思ってしまうほの暗い感情が、自分の中で湧き上がる。
「・・・なら・・・・・風音、俺の名前を・・・・・・呼んで?・・・願いを言って」
首に埋めていた風音の顔を上げさせて、視線を交える。
泣いて赤くなった目元と僅かに震える唇を親指でなぞり、ゆっくりと目を細めれば、それが何を意味するかを知っている風音は小さく微笑んで口を開いた。
「・・・・・・みー・・・・――瑞樹(みずき)・・・いっしょにいて」
「・・・・愛おしい子・・・俺の風音。お前が、それを望むなら――」
たとえ、人を殺めこの魂が魔に堕ちようとも、お前を手放すことはないだろう――
――そして、俺はお前の全てを奪うような口付けをする。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
終わり。
この後、瑞樹がカマイタチで鎖を切って逃げ出します。
そして、風音を抱き上げ、翼で空を飛んでどこか人のいない土地で2人で暮らすんだと思う。
勝手に妄想してください。
一応言っておきますが、風音は16歳以上で、瑞樹は年齢不詳です。
決して、ロリではありませんのでっ!
風音の口調がたどたどしいのは、精神的なもので、風音の過去に関わりがあるという設定があってのことです(出てこなかったけど)
そして、話がどことなく甘いのは・・・・・私が糖分不足で、甘さが欲しかったからじゃー!
「俺の、風音」ってどうしても言わせたかったんですっ!
完全燃焼といかないながらも、70%くらいは満足しました。
ああ、瑞樹は白髪青眼で白い翼があります。
ついでに、獣化もできるという設定があります(出てこなかったけど)
文章がぼろくそなのは、気にしては駄目だと思います。
あと、ちょっとした仕掛けに気付いた人は笑えばいいと思う。
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