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2010/08/24 (Tue)

ザァァ――
 月が雲に隠れ、闇に満ちた森の中を一陣の風が駆け抜ける。
 静寂に包まれた森は、深い闇に怯えるように唯ひたすらに沈黙を守り、風の音以外そこに響くものはなく、重苦しい気配がその場を支配していた。 

『ギャァア!』

 突如、甲高くひび割れた、生き物が発したとは思えない声が、広い森に響き渡った。
 それは丸い身体が黒い毛で覆われ、毛の間からは血の色をした1つの紅い瞳が覗き、ギョロギョロと絶え間なく動いている。
また、生えている4本の足には、鋭いツメが3つほど付いていて、傷つけられれば只では済まないことは明らかだった。
――その姿は、正に異形。
 声の主は、全身から血を滴らせ、木々を薙ぎ倒しながら森の奥へと逃げていく。
 
シャラン―・・・
 
 悲鳴と木々が薙ぎ倒される音が響く中、静かな、それでいて凛とした鈴の音が風に紛れ、闇の中から2つの影が現れる。
 風を斬るように駆けるのは、黒を纏う青年と白を持つ狼。
 彼らは、足元も見えないはずの森の中で、危なげもなく確実に異形のモノ――妖魔を追っていく。 

「・・・・・・ロウ」

 青年が相方の名を呼べば狼、ロウは青年と一瞬視線を交え、走るスピードを上げると、妖魔の前に回りこんだ。
いきなり前方を塞がれた妖魔は、邪魔者を排除しようと黒い毛を伸ばし、鞭のように、牙を剥くロウへと叩き付ける。
 その攻撃を、横に飛ぶことで回避したロウは大地を蹴ると、妖魔の紅い瞳を鋭いツメで引き裂き、身体に牙を突き立てた。

『グギャアア!!アア――ッ』

「・・・・・・」

 ロウを振り落とそうと暴れる妖魔の攻撃を青年は軽々と避け、妖魔の息の根を止めるべく、刀を上段に構える。
 その刃は現れた月の光に照らされて、冷たい光を放っていた。

「・・・魔よ、その罪と闇を持って消え去るがいい」

 青年の低く、怜悧さを感じさせる声が、感情を灯さずに発せられ、彼の青い瞳が眇められる。
妖魔を映すその瞳は、見るものを凍りつかせてしまうのではないかと思うほど冷たい色を宿し、それと同時に深い憐れみを浮かべていた。
 
 
 神が世界を創造してから幾千年。
 楽園と呼ばれていた世界は崩壊を始め、人々は希望を忘れて絶望の淵に立っていた。
 人々の負の感情は闇となり、その闇が『魔』を生んだ。
 実体の持たない『魔』は互いに引き寄せあい、一つの実体のある『妖魔』へと姿を変えて、人々を襲うようになる。
 恐怖と絶望に支配された世界を憂いた神は、己の分身を大地に降ろし、世界の救済を命じた。
 
 世界が安寧を取り戻す、その時まで――・・・

「ギャアアッ・・・ガグウウウ」

 妖魔の鞭が大地を抉り、攻撃を避け続ける敵に容赦なく襲い掛かる。

「・・・・・・」

 それを見た青年は、頬を掠める攻撃にも微動だにせず、そこには何も無いかのように静かに目を閉じる。
そして、彼が軽く息を吐き、再び目を開けたときには、妖魔の姿だけを色彩が増した青い瞳が捉えていた。
 揺るぎない光を宿した瞳をそのままに、青年は襲ってきた鞭を刃で弾き返し、体勢を低くすると、彼の刀の鈴が小さく響いた。

「・・・黒琉(こくりゅう)が使い手、アレキエル。神との契約により・・・いざ、参る!」

 その言葉と共に、怒り狂い闇雲に攻撃してくる妖魔の足元まで、一瞬で移動した青年は、上段の構えのまま素早く刀――黒琉を滑らせ、前足を斬り捨てる。
ドズンッ――
 前足を失くした妖魔は、身体を支えられず前へと倒れこみ、身体が地面に叩き付けられた振動で、大地が揺れた。

『ガァアアア――ッ!ギャアァ!』

耳障りな叫び声を上げ、毛の鞭で木を薙ぎ倒す妖魔に止めを刺そうと、鞭を避けながら青年は黒琉を振り上げた。

『グァァァアアア!』

「・・・っ!」

青年が黒琉を振り下ろそうとした瞬間、彼の背後から黒い槍が飛来し、それを避けた青年の隙を狙って妖魔が鞭を振り上げる。

「・・・・・・チッ」

「・・・アレクっ!」

 ロウが妖魔から飛び退き、青年――アレクの許に行こうとするが、妖魔の妨害を受けて近付くことが出来ない。

(くそっ・・・)

 素早く回り込もうとしても、どこからか黒い槍と鞭が飛んでくる。
 ロウが低い唸り声を上げている一方、アレクは立て続けに鞭と槍が襲い、体勢を立て直すことが出来ずにいた。
 刀と身体を使い致命的な傷は避けていたが、小さな傷があちこちにできている。

「・・・っ、はあ!」

 攻撃を避けつつも気配を探っていたアレクは、一瞬視線を上げ、飛んでくる槍を落としながら一本の槍を掴み、その反動を利用してそれを森の暗闇へと投げ返す。

ドチュッ

「ビィィイイイイ」

 槍が刺さる音と空気を震わす声がすると、妖魔の目が森の方を見て、何かを呼ぶような音を響かせた。
 すると、地面を這いずる音と共に、闇の中からスライム状の妖魔が姿を現し、傷を負っている妖魔の方へ触手を伸ばすと、そのまま己の許へと引き寄せた。

「ギャァ、グッ、ギイイイイイ」

覆いかぶさるようにして、二体の姿が合わさると妖魔は奇声を発し、その身体をボコボコと歪に膨れ上がらせた。 
アレクはその行動に驚ため、横から襲い掛かった鞭の攻撃を避けることができず、咄嗟に刀で防ぐが、その力に耐え切れずに空中へと弾き飛ばされる。

「くっ・・・ロウっ!」

 アレクは反射的に信頼する相棒の名前を呼び、刀を持っていない左手を伸ばす。
妖魔の妨害がなくなったロウは、アレクが空中に放り出されるのを見て、強く大地を蹴り、伸ばされた左手が首に回されるのを感じながら、彼の身体を背で受け止めた。
トンッ
軽い音を立てて着地したロウを一撫でして、その背から降りたアレクは、変化を続ける妖魔を忌々しそうに見つめる。
 彼の隣に立っているロウも彼と同じように目を眇め、ため息を吐いた。

「再構築するつもりか・・・・・・。おい、アレどうするんだ」

 ロウが「厄介だぞ」と呟くと、アレクはロウへと視線をやり、構えていた刀を下ろした。

「・・・どうするも何もないだろう。完成する前に切り捨てるまでだ。・・・そうだろう?」

 アレクは無表情だった顔に薄く笑みを浮かべ、手の平に軽く刀を滑らせると、切れたところから血が流れて、その紅が黒琉の銀色に輝く刃を彩っていく。

(・・・また、始まった)

 彼の行動にロウは再度ため息を吐くが、諦めたようにアレクから離れ、自身の周りに結界を構築した。
こうなってしまっては、誰にも止められない。
視界の端でそれを見届けると、アレクは人差し指と中指で黒琉の刃に触れる。

「起きろ、黒琉」

 アレクは命じるように言葉を紡ぎ、黒琉を顔の前に掲げた。すると、風が彼を中心に吹き荒れ、鋭い刃と化した風が、近くにある木を切り倒していく。
 風は勢いを増し、風によって切り刻まれたものが、座っているロウの脇を、ものすごいスピードで通り抜けていった。
 ロウは毎度のことながらやり過ぎだ、と呟きながら、その様子を眺める。

(アレク――・・・)

 目を閉じ、祈るように刀に額を寄せる彼の姿は、風に巻き上げられるままに乱れる髪すらも、神秘的に見せる。

「・・・まったく、・・・・・・神も、厄介なヤツを選んだものだ」

 自分も人のことは言えないが、神に直接創られたものは「常識」を逸脱する。
 〝それら〟はそれぞれに特化した特徴を持って生まれるのだが、ロウは選定や選別に優れ、神の求めた者を見つけるのが使命だった。
 人には少なからず感情という心があり、ロウはそれを色として視ることが出来る。
 その色は個々で少しずつ違うのだが、その中でもアレクの色は「異常」で、視たときは思わず同類だと思ってしまったほどである。
共に過ごしてみれば、色に限らず、ヤツは身に宿す力はもちろん、容姿、頭脳、運命すらも「常識」を逸脱していたのだ。
 本来、人としてはありえないモノに驚愕し、恐怖すら感じた自分。
 だが、それでもアレクに黒琉を託し、彼の刻を止めてまで神の代行という役目を負わせたのは、自分の持つ力が強く訴えていたから。
――このことを任せられるのは、彼しかいないのだと。
 
キィィン――
時間にすれば、ほんの数秒だったのだろう。
 高く透き通った音が響くと同時に、荒れ狂っていた風は止み、隠されていた青氷の瞳が現れた。銀色だった黒琉の刃は漆黒に染まり、僅かな光を受けて、その輪郭が浮かび上がっている。

「・・・さあ、さっさと片付けようか」

 アレクは、まだ構築を繰り返している妖魔に目を向けると、「ロウ!」と声を上げて黒琉を左手に持ち直す。

「ったく。分かってるよ!」

 ロウは駆け出すと、妖魔の周りに結界を張り、同時に方陣を展開した。
 幾多にも展開された陣の中心にアレクは立ち、黒琉を天に向かって掲げると、刀の柄に付けられた鈴が自然と音を奏でる。
 それを確認すれば、アレクは瞳を伏せ、黒光りする刃にそっと触れて、静かに言の葉を紡ぐ。

《・・・我が崇めし神よ、理に繋がれし獣を解き放ち――・・・》

 淡い光がアレクと方陣を照らし、言葉が続くにつれて、その光は強くなっていく。

『グァアアッ!』

 アレクの言葉を遮るように苦しむ妖魔の声が響き、変貌した身体を結界へと叩き付けて、自分を捕らえる壁を壊そうとしていた。

(・・・・・・・予想以上に再構築が早い)

 夜であるためか、闇の濃度が濃かったようだ。
 ロウはそのことに舌打ちをし、敵意を滲ませた視線を、結界の中で足掻く妖魔に向けた。

『ギギギギッ』

 壊れない結界に、妖魔が怒りと苦しみを込めて鋭いツメを何度も振りかざすと、ツメが透明な壁に食い込み、ピシリ、と結界に亀裂が走る。

(やばい――!)

 ロウは結界を修復しなければと思いつつも、各所に展開させている方陣を維持するために動くことができず、奉上の言を捧げるアレクに向かって叫んだ。

「アレク!」

 急かすロウの声に目もくれず、アレクは口元に笑みを浮かべた。

(・・・っ。アレクのヤツ!)

 普段は無表情のくせに、戦いになると感情が表に出る。
 それも、危機的な状況であるほど、その戦いを楽しむ傾向があるのだ。
 なんて面倒な性格なんだっ!と心の中で叫びながらも、アレクから余裕を感じたロウは、彼のすることを黙って見ていることに決めた。
 ロウが諦めの姿勢をとったことに気付き、アレクはその笑みを更に深くする。
アレクにはロウのその行動が、自分に対する絶対の信頼からくるものだということを知っていたから。

《――心を、夜を支配する月に捧げ・・・》

 アレクの声と鈴の音によって方陣が互いに共鳴を始め、彼らの足元に巨大な『場』をつくる。
 それは彼らにとっての防御であり、攻撃でもある空間。

『ガアァァァ――ッ!』

パリ――ンッ
『場』が形成された途端、妖魔の力に耐え切れなくなった結界が、高い音を立てて崩れた。
それを耳で認識したアレクは、焦ることなく妖魔に目を向け、残りの式を完成させるべく、声を響かせる。

《・・・――我が名の下に契約を》

『――グォォォオオオッ!』

 結界が壊れ、自由となった妖魔は、素早い動きでアレクへと襲い掛かり、アレクは黒琉を構え、口に笑みを浮かべながらそれを迎え撃つ。
 妖魔がツメを振り下ろすのと同時に、アレクは黒琉を前に振り上げた。

《神の御名において、封印されし力を解放せよ!》

――ザンッ
最後の言葉が紡がれると、鋭い音と共に青白い光が瞬き、すべてを白く染め上げる。
 
「終わりだ――・・・」
 
 光が収まった後には、アレクの静かな声だけがその場に響いた。
 
*   *   *
 
「お疲れさん、アレク」

 黒琉を一振りして鞘に仕舞うアレクに、ロウは声をかける。
 アレクが斬った妖魔は、霧のように霧散し、跡形もなく消え去っていた。

「その傷以外、大きな怪我はないか?」

「・・・・・・ない」

「そうか、それならいい」

無表情に戻ったアレクを、笑いながら尾で軽く叩き、ロウは座るように指示する。
アレクがそれに素直に従い、切り倒された切り株に腰を下ろすと、ロウは方陣を展開させ、静かに金色の瞳を閉じた。

《我が名は制約を解き、誓いを立てし者の癒し手とならん》

 そう唱えれば、暖かな光がアレクを包み込み、ゆっくりと消えていく。

(・・・・・・暖かい)

 光が完全に消えると、顔にあった傷がなくなっていた。
 アレクはそれを確かめるように、頬や左手に手を滑らせて、ロウに目を向ける。
 その視線を意識しながらも、ロウはアレクの周りをぐるりと一周歩き、他に怪我がないかどうかを調べていく。

「・・・どうだ?」

 「どこか、おかしなところはないか」とロウはアレクを見てやる。
 アレクはそれにまっすぐ視線を返すと「一つだけ」と呟き、ロウはどこか調子が悪いのかと彼の言葉に意識を集中させた。

「・・・・・・暖かくて、綺麗だった」

「・・・、・・・・・・は?」

 意味が分からない。
 アレクが意味不明なことをいうのは今に始まったことではないが、こんなに脈絡のないことを言うのは珍しい。

「何が・・・。いや・・・そうじゃなくて・・・・・・」

 アレクは困惑気味のロウを、感情が燈っていない瞳で見つめ、優しく頭を撫でた。

「・・・冗談だ」

「・・・・・・アレク。無表情で冗談を言われてもだな・・・」

「・・・体の調子は良い。ありがとう」

 戦いの時とは違った、柔らかい笑みを浮かべて、アレクは言う。
 その笑みを見たロウは頭を撫でられながら、深くため息を吐くと「アレクだしなぁ」と呟いて、しばらくの間アレクの好きなようにさせることにしたのだった。
 
 数分後、アレクがロウの身体に顔をうずめるようにして寝息をたて、ロウが呆れてため息を吐くのはまた別の話。
 
 
・・・――暖かいのは光、綺麗なのは
光に照らされ白銀に輝く君の姿。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
またやってしまった・・・・・・
世界観はまた独自のもので、今までの話と関係はありません。
まあ、他の物語もそうなんですけど。
あー新しいのを書かなければいけませんねえ。
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1991/03/29
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自然をこよなく愛し、たまに小説なんかを書くマイペースが自慢な人間です。
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