忍者ブログ
2007/02/11
[1] [2] [3] [4]

2025/04/21 (Mon)
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。


2011/02/18 (Fri)


*注意*
人によっては不快に思うような内容です。
内容は暗めで、よく中学校とかで起きるようないざこざが発生しています。
また、分かりづらい文章なっていますのでご理解いただける方だけお読みください。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


――もし、信じていた人に裏切られたら、自分はどうするのだろう。

何でもないと、いつものように笑うのだろうか。
信じるべきではなかったと、嘆くのだろうか。
なぜ裏切ったのだと、怒るのだろうか。

それとも・・・・・やはり、と嗤うのだろうか――

     *   *   *

 それは、いつもと変わりのない日だったと思う。
 少しだけ雲がかかっていて、冬の青空が霞んで見えるということだけで、いつもと同じように学校に行って授業を受けるだけの日だったはずだ。
 友達と冗談を言って、面倒なことも適当に受け流して、何でもない1日になるはずだったのだ。
 
 それが何故、こんなことになるのだろうか。



 朝、教室に入れば入学当初から仲良くしている友達がいた。
 いつもならば、適当に挨拶をしてそれぞれの椅子に座るのだが、彼女は何やら思いつめた表情でじっと机を見ていた。
 私は彼女の表情を見て、何故か嫌な予感がした。
 過去に同じような風景を見たことがあったからだ。
 あの時も、こんな風に思いつめた表情をした友達が・・・・・・・・

「ねえ」

 私が過去のことを思い出していると、不意に黙っていた彼女から声をかけられた。
 彷徨わせていた視線を彼女に向けると、彼女は真剣な様子でこちらを見ていた。
 
(――――アア、)
 
 彼女の目を見た瞬間に理解した。
 彼女は知ってしまったのだ。
 そして、カノジョは言ってしまったのだ。

――私が、彼女が望まない結果を生むような気持ちを抱いてしまったことを。

 あの時は諦めていた。 
 そういうものだということを知っていた。
 人は人である以上、完全ではないし、ましてや人の感情など変わることなど当たり前なのだ。
 信じていてもいつかは裏切られるのだと、あの時学んだはずだったのに・・・・・

「あなた、私のことをカワイソウって言ったって本当?彼の気持ちが私に向いていないから?それとも、彼があなたと仲がいいから?彼があなたを憎からず思っているから?あなたも、彼を好きだから?・・・・・・ねえ、どうなのっ!」

 ああ、昔と同じ。
 あの時は私に非があったし、幼かった故の意地があの状況を招いた。
 これも、もとはと言えば自分が悪いのだろう。
 友達なのに、彼女と同じ人を好きになって、彼女とあまり仲の良くない彼と私は昔からの友達で、彼女の気持ちを知っていて「カワイソウ」と言ったのだから。
 けれど――・・・

 人は過ちを繰り返す。

 本当にそうだ。
 人の悪口は言わない。
 自分の身のうちを悟らせない。
 人を信用してはいけない。
 他人を入れてはいけない。

 学んだはずだった。
 理解していたはずだった。
 なのに何故ワタシハカノジョニイッテシマッタノカ。

 私は信じたかった。 
 一人でいい、ひとりでいいから信じられる人が欲しかった。
 出会ったカノジョは優しくて、傍にいると安心できる存在だった。
 信じてもいいのだと思った。
 私は周りの誰よりも、カノジョの気持ちや行動を優先し応援する。
 カノジョが望めば、自分ができる限りの協力をする自信があった。
 それくらい、カノジョは誰よりも信用できる人だった。
 だから、私はカノジョに言ったのだ。

――彼に見向きもされない彼女がカワイソウ、と。

 きっと、そう言ったときの私は、嗤っていたのだろう。
 優越感に浸って嗤っていたのだろう。
 だからカノジョは、私に愛想をつかして彼女にそのことを言ったのだろう。

――カノジョもまた、私たちと同じなのだから。

 ああ、私を睨む彼女も、ココにいないカノジョも、私も「コイ」というどうしようもないものに捕らわれた。
 信じても、コイをしても、自分が真実であるかぎりどうしようもない。
 いくら私がカノジョを優先しようと、応援しようときっともうモトニハモドラナイ。
 
 だから、私は嗤う。

 これを裏切りと言うのなら、裏切ったのはカノジョ。
 でも、信じたのは私。
 信じなければ「裏切られる」ことはないのだから、私は信じるべきではなかった。
 「やはり」と落胆する権利すらない。

 私は知っていた。
 理解していたはずだった。

 だから私は信じることをやめた。
 
 他人の好意など、いつかは嫌悪に変わる。
 全ては私が悪いのだろう。
 気付けない私が愚かなだけなのだ。
 カノジョを苦しめるくらいなら、私なんていなければよかったのに。
 それが出来ないのなら、全てがコワレテしまえばいいのに。

 信じられない私も、そうした周りも、歪めてしまう全て、すべて、スベテ――

 私は知っていた。
 身をもって理解していたはずだった。

 信じることは裏切ることよりも難しく、崩れた絆は元には戻らない。
 
 
 だから、心が泣いても私は嗤おう

 性懲りもなく信じ、カノジョを裏切らせた自分と、どんな人間でも所詮はであることを――


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ということで、何でこんな意味不明な文ができたのかというと、試験期間で鬱気味になったからです。
中二病くさい?
それはきっと、中学校の時を思い出しながら書いたからです(笑)
鬱気味になると中学校のことを思い出してしまうので、さらに鬱気味になるという悪循環。
実際はこうではありませんでしたが、似たようなことがありました→遠い目
今日の友達は明日の敵って感じの毎日を過ごし、すっかり人間不信ぽくなってしまって、最近やっと治ってきたと思ったのですが・・・・・・・・やっぱりダメですね。
全く治ってなかった(笑)
おかげで、今ものすごくしんどいです。

さて、どうしようかな(笑)

ひとまず、残りの試験頑張ります。
PR

2011/01/31 (Mon)

 

深い眠りなどで意識が心の奥底に沈むとき、時たま過去の出来事を思い出すときがある。

私と彼が出会った、遠い昔の出来事を。

 

――・・・・・・。

白く暗い意識の中で、誰かが私を呼んでいる。

その声は優しくて温かくて、〝ナニモナイ〟空っぽな私の意識を、ゆっくりと目覚めへと導いてくれる。

「・・・・・・っ」

声に導かれるままに目覚めてみれば、私を光の洪水が襲った。

目蓋で塞き止められていた光が、一度に目へと流れ込み、その眩しさから何度も瞬きを繰り返す。

「・・・起きたか?」

視力は完全には機能していなかったが、私の近くから聞こえた声に、横になっていた身体を起こして声のした方へと顔を向ける。

ぼんやりとした視界の中で、輝く金と深く美しい蒼が私の意識を強く引いた。

「・・・・・・何か聞きたいことは・・・私が誰だか分かるか?」

私は言われた事を考えてみるが、不思議と意識や気持ちに混乱はない。

私が誰であるか、ここは何処であるかといったことは何一つとして分からなかったけれど、ただ一つのことは識っていた。


「・・・・・・・・・・あ、るじ」

――目の前に在る人が、私の主であるということ、ただ一つだけ。

 主は私の視力が回復するのを確認すると、ゆっくりとした口調で、自分や私のことを語った。

 神である主の役割や世界の現状、私の存在理由、そして「対」の存在。

 主の話は真っ白な私に、色を付けていく。

 私は主が話すことを私という紙に書き連ね、「私」という〝個〟を造り上げる。

「・・・おいで――・・・」

一通り話が終わると、主は私の手を引いて私が寝ていた部屋から出る。

少しよろめきながら、連れられるままに何度も角を曲がり、階段を上って、青や緑で模様が描かれている扉の前に立つと、主は躊躇いもなく扉を開けて中に入っていく。

当然、手を繋がれている私も主と共に部屋へと入り、その背に少し隠れながら部屋の中を見渡す。

部屋にはあまり物がなかったが、その一つひとつには繊細な彫刻が施されていて、落ち着いた雰囲気の部屋によくあっていた。

しかし、基本的に青色のもので統一されている所為か、私はこの部屋がどこか寂しく感じた。

ふと、部屋の奥に目を向けると、窓の近くに置かれた椅子に、こちらに背を向けるようにして子供が座っている。

時折、風で青いカーテンが揺れ、子供の顔に影を作る。

子供は主が部屋に入ってきたことにも気付かず、ずっと窓の外を眺めたままだ。

私はどうしていいか分からずに、立ち止まったままの主を仰ぎ見た。

主は私の視線に僅かに微笑み、私の手を握っていない方の手で風を切るような動作を行う。

――ザァアア

 主の手が止まると同時に、開けられていた窓から突風が吹き込み、カーテンと子供の紺青の髪を乱した。

 子供は乱れた髪を直さないまま立ち上がり、緩慢な動きで感情の灯らない瞳を主に向けた。

「・・・・・・お前の「対」を連れてきた」

主が私の肩を押して前に出すと、少年の目が私を見据え、私と彼の視線が絡まる。

「・・・あ、のっ」

 私は困惑していた。

 目覚め、何も分からなかった時でさえも、ここまで感情が乱れることはなかった。

 目が合わさった瞬間、自分では分からない、どうすることも出来ない感情が溢れ、無意識のうちに涙を流していた。

 それは向かい合う彼も同じようで、困惑しながらも、青い瞳からは止めどなく涙が溢れている。

 主はそんな私達を見て、そっと私の背を押しながら耳元で囁いた。

「・・・・・・行きなさい」

 主の言葉に、訳がわからないまま一歩足を踏み出すと、それを見た少年も歩き出し、お互いの距離が次第に短くなる。

 手を伸ばせば届く位置まで来ると、互いに足を止め、それぞれの瞳を見つめる。

 彼との距離が短くなればなるほど、知らない感情が溢れて苦しくなるが、彼から離れたいという気持ちは起きず、寧ろ近付きたい、触れたいと思ってしまう。

 しかし、触れたいと思っても身体が動かず、声をかけようとしても何を言えばいいのか分からないため、結局黙り込む。


「「・・・・・・・・」」

 どちらも動かず、声も発しないままの状態が続く中、最初に動いたのは彼だった。

「・・・・・・・・・・」

「・・・・・あ」

 彼の綺麗な指が私の涙が流れ続ける頬に触れ、涙が流れるたびに、何度も何度も繰り返し、優しく拭われる。

 私は頬に触れる彼の体温に安心して、その手を包み込むように自分の手を添え、目に付いた彼の乱れたままの髪を撫でて直した。

「・・・・・・っ」

 そのまま髪を撫で付けていると、いきなり髪を撫でていた腕を掴まれ、彼の方へ引き寄せられる。

 突然のことに、私は驚き目を見張って、彼を見上げようとしたが、私よりも背が高い彼に抱きこまれていたため、身体を動かすことが出来ない。

 彼の腕の中にいるというだけで、私が私でないかのように身体が言うことを利かず、感情も追い付いていかなかった。

それでも、彼から伝わる体温と聞こえてくる鼓動が、私に安心感と温かさを与えてくれる。

私は彼に触れたことで、主が言っていた「対」の意味が分かった気がした。

魂の片割れと言っていいほど、心の深いところで繋がりを持ち、互いがいることで、力と存在、そして心を安定させる。

愛おしく大切で、何があっても絶対に失いたくないと思わせる存在。

「対」に出会い、その熱に触れた瞬間から、感情が生まれ、それを自覚するのだ。

それは、彼も同じだったのだろう。

最初は曖昧で、明確な意思がなかった瞳に、今は思わず息を呑むほど鮮やかな青を宿らせていた。

「我は、昴(すばる)。君は名を何という?」

 優しくて思っていたよりも低い声が、すぐ近くで聞こえる。

 その彼の包み込むような声音に聞き惚れて、私が反応できないでいると、昴は少しだけ身体を離して私を見つめた。

 ゆらゆらと炎が揺らめくような瞳で見つめられ、私は熱に侵されたように口を開いた。

「・・・・・・私は・・・明星(あけぼし)」

 そっと自分の名前を囁けば、彼は私の名前を繰り返して、蕩けるような微笑を浮かべた。

私達は主に与えられた名前を互いに呼び合い、湧き上がってくる感情を瞳に灯して、相手を見つめ続ける。

「・・・これから、我と共にいてくれるか?」

 彼の言葉に、私は微笑を返す。

「勿論です。・・・いつまでも共に」

 そうして、自然と私達は互いの指を絡め、額を合わせて静かに目を閉じる。

「「・・・ここに誓いを」」

 彼と共にあることを願いながら、私は彼の存在だけを感じていた。

 主はそんな私達を優しく、そして少し寂しそうに見ていることも知らずに。

 

 ――それから、私達は白麗と黒醒に出会って、神の意思のままに壊れかけた世界へと降り立ったのだ。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「暁月夜」の過去編です。
微妙すぎて泣けますが、気にしたら終わりだと思います(笑)

2010/11/05 (Fri)

導きの光が灯る。

どんなに求めても見つけることが出来なかった光が

今、その輝きを見せる――


            *   *   *


 願ったことがある。
 
 鎖に繋がれた闇の中で寒さに震え、ただ訪れるであろう終わりを待っていた。
 人々が、異形の姿を持つ自分を閉じ込めたのは当然のことだったのかもしれない。
 けれど、どんなに姿が異なっていても、人が持たない力を持っていたとしても、人を傷つけたことなどなかった。
 仕方がないと思う自分と、何故閉じ込められなければならないと思う自分とが、身体の内で渦巻いているのを感じる。
 憎しみに任せてここを出ることはできたけれど、それは少なからず人を傷つけることになると分かっていたからこそ、黙って鎖に繋がれ、身を侵す寒さに耐えていた。

(寒い・・・・・・)

 吐く息が白く染まる。
 食事も取らず、寒さの中に身を置いていたせいで身体が重く、腕を動かすのも辛い。
 まるで、感覚が遠くに行ってしまったような、定まらない思考の中でふと、光が見たいと思った。
 ここに閉じ込められてから、光を、空を見ていない。
 今の季節ならば、澄んだ青空が見えるだろう。

(――ああ、また、あの光を・・・空を見る事ができるだろうか・・・・・・・)

 一度願ってしまえば、もうそれしか考えることが出来なかった。
 どこまでも広がる空。
 季節と時間によって色が変わり、いろんな色を見せてくれる。
 風に揺られてずっと眺めていた。

 ずっと・・・ずっと・・・愛おしいあの子と――

(あの子は・・・寂しい思いをしていないだろうか・・・・・・・痛い思いはしていないだろうか)
 
 愛おしい人の子。
 異形の自分を綺麗だと言ってくれた、守るべき子。
 空のようにくるくると表情を変えて、色んな感情を教えてくれた子。

 もう、会うことはできないだろうけど・・・・・・

(幸せであってほしい)

 人であるあの子は、きっと自分のようにならないから。
 異形にかどわかされた子として保護されるだろう。
 だから、自分はこの暖かい気持ちを抱いたまま、このまま朽ちてしまえばいい。
 そうすれば、魂が魔に堕ちることはないし、あの子に迷惑が掛かることもない。

(・・・けれど、やはり・・・・・・・・)

――お前とまた、空を見たいと願ってしまうよ・・・・・・



『カタッ』

 闇に落ちかけた意識が、小さな音に引きあがられる。

『・・・カタ、カカ・・・・・・ガタン』

 少ない力を振り絞って、音のする方へと顔を向ける。
 小さかった音は次第に大きくなり、僅かな時間の後、闇に慣れていた目を光が焼いた。

「・・・っ」

 白く染まる視界の端で、何かが動くのが分かった。
 その気配は間違えるはずのない・・・愛おしいあの子のもので、唇が震える。

(・・・そんな、そんなはずが――)

 もとに戻らない視界がもどかしい。
 軽い足音はゆっくりと近付いてきて、自分のすぐ傍で止まった。
 しゃがんだのかふわりとした風を感じた後、暖かい温もりが頬に触れた。
 今、自分の顔はきっと情けなく歪んでいるだろう。
 その暖かさも風が運んできた香りも、もう感じることが出来ないと思っていたから。

「――・・・・・・・みー」

「・・・・・か・・・ざ、ね」

 軟らかい声で、あの子だけが使う自分の愛称が呼ばれる。
 頭を抱きかかえられた状態で見上げれば、光に慣れてきた瞳にはぼんやりと愛おしい姿が見えた。
 力の入らない腕をゆっくりと上げ、その赤みを帯びた頬に添えてあの子の名を呼ぶ。

 自分と一緒にいては危険なのに、見つかったら何をされるか分からないのに、この温もりを放したくない。
 愛おしい・・・愛おしい、大切な子。
 その艶やかな黒髪も、濡れた黒曜石の瞳も・・・何一つ変わっていない。
 知らず知らず詰めていた息を吐き出す。

「・・・みー、かえろ・・・・・」

 風音は体温を移すように、優しく抱きしめてくる。
 その暖かさに身を任せてしまいそうになりながら、風音を自分から離すためにかすれた声を出す。

「駄目・・だ。・・・・・・誰かに見つかる前に「いかないっ!」」

「みーいない、さみしい・・・・・・そら、みても、たのしくない。みーここにいるなら・・・・わたしも、いる」

 今まで、一度も声を荒げたことのない風音が、自分の言葉を遮り、抱きしめる力を強めたことに驚いた。
 けれど、風音の吐く息も白く、外気と自分の体温で彼女自身の体温も下がりつつある。
 異形の自分はまだしも、人である風音は長くは持たない。

「・・・風音、お前は・・・・人の子だ。俺とは、違う」

「ちがわない・・・・ちがわない・・・・・・みーといっしょ」

「・・・・・違うんだよ。お前と、俺は違う・・・お前は人の子だから、人の中で、生きていける。俺は・・・・異形だからここにいるのは仕方が・・・・ないことなんだ」

「みー、なにもしてない・・・わるいこと、してない。そのはねも、かみも、そらのいろのめもきれい・・・なのに、こんなところに、みーをとじこめるヒトなんて、きらい・・・・・きらいっ」

 風音はぼろぼろと涙を零して、片言な言葉を紡ぐ。
 人への感情に憎悪を抱いてしまったのか、壊れたように「嫌い」を繰り返す。

(・・・・愛おしい、人の子・・・風音・・・・・・・)

 人の子であるこの子に、人が嫌いだと言わせたくはなかった。
 それでも、その言葉を嬉しいと思ってしまうほの暗い感情が、自分の中で湧き上がる。

「・・・なら・・・・・風音、俺の名前を・・・・・・呼んで?・・・願いを言って」

 首に埋めていた風音の顔を上げさせて、視線を交える。
 泣いて赤くなった目元と僅かに震える唇を親指でなぞり、ゆっくりと目を細めれば、それが何を意味するかを知っている風音は小さく微笑んで口を開いた。

「・・・・・・みー・・・・――瑞樹(みずき)・・・いっしょにいて」

「・・・・愛おしい子・・・俺の風音。お前が、それを望むなら――」

たとえ、人を殺めこの魂が魔に堕ちようとも、お前を手放すことはないだろう――



――そして、俺はお前の全てを奪うような口付けをする。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

終わり。
この後、瑞樹がカマイタチで鎖を切って逃げ出します。
そして、風音を抱き上げ、翼で空を飛んでどこか人のいない土地で2人で暮らすんだと思う。
勝手に妄想してください。

一応言っておきますが、風音は16歳以上で、瑞樹は年齢不詳です。
決して、ロリではありませんのでっ!
風音の口調がたどたどしいのは、精神的なもので、風音の過去に関わりがあるという設定があってのことです(出てこなかったけど)
そして、話がどことなく甘いのは・・・・・私が糖分不足で、甘さが欲しかったからじゃー!
「俺の、風音」ってどうしても言わせたかったんですっ!
完全燃焼といかないながらも、70%くらいは満足しました。
ああ、瑞樹は白髪青眼で白い翼があります。
ついでに、獣化もできるという設定があります(出てこなかったけど)

文章がぼろくそなのは、気にしては駄目だと思います。
あと、ちょっとした仕掛けに気付いた人は笑えばいいと思う。

2010/09/15 (Wed)

 その村には、古くからの言伝えがあった。

 『村を守る裏山には、神がいる』

 村が何かしらの災厄に陥った時、裏山に分け入れば、いつの間にか大きな木の下に立っているという。そして、その木に救いを求めると、村の災厄は去るのだと。
 興味半分で山に入ろうとすれば迷い、知らずしらずのうちに裏山の入り口にたどり着く。
何かに化かされたように、本当に困った時に心から助けを求める者しか、そこには行くことが出来ない。
だからこそ、村の者達は噂する。

――『裏山には、神がいる』のだと。
 
*   *   *
 
 穏やかな青に目を細め、暖かくなりつつある風を受けながら、若葉が芽吹く木々の間を一人の男が軽い身のこなしで進んでいく。
男は長い群青色の髪を後ろで結び、少しくたびれた鶯色の服の上に、裾の長い青墨の衣を羽織っている。
髪の間から見える梔子(くちなし)色の瞳は、真直ぐ前を見据えており、そこに宿る光は意志の強さを感じさせた。

雪解け水が小さな流れとなって木々の間を走り、待ち焦がれたように葉を伸ばす植物だけではなく、冬の間静かにしていた動物達が空腹を満たそうと、巣穴から出てくる。
賑やかになった山を横目に見ながら、男は逸る気持ちを抑えて山を登る。
山の斜面がそれほど急ではないといっても、大きな石や木の根で足場が悪いにも関わらず、男は疲れを感じさない足取りでどんどん奥へと入っていく。
すると、突然上り坂だった斜面が平地になり、周りを覆っていた木々が、その場所を囲むように拓けていた。
中央には樹齢何百年も経っているであろう一本の大きな橘があり、広く伸ばされた枝には他の木と同様に若々しい新芽を芽吹かせている。
男が先ほどまでとは違い、ゆっくりとした足取りで木に近付き、その雄大な姿を穏やかな瞳で見上げて口を開く。

「・・・――また、春が来たね。起きているかい、白琳(はくりん)」

 心地よい声が響き、優しく降り注ぐ日の光が風に揺られる若葉の間から、男の目を一瞬眩ませる。視力が戻ると、それまではいなかった一羽の雌黄の鳥が、枝に止まって緑青色の瞳で男を見つめていた。

「・・・ああ、起きておるぞ黒鵜(くろう)。久しぶりだのう。少し痩せたんじゃないか?」

 普通であれば喋るはずのない鳥が涼やかな声で話し出すが、男―黒鵜は驚いた様子もなく肩を竦め、苦笑気味に答える。

「それはそうだろう。最後に会ったのは、秋の暮れなんだから。冬を越せば、誰だって痩せる」

 自分には当たり前のことであっても〝彼女〟にとってはそうではない。
そして、その逆もまた然りである。
 そのことを良く知っている黒鵜は、腕を挙げて「来ないの?」と首を傾げながら言う。
 黒鵜の以前と同じ行動に、白琳は僅かに戸惑ったが、彼の表情がとても穏やかであるのを見て、美しい翼を広げる。

「くすっ・・・お主は変わったが、変わらぬ」

 白琳は黒鵜の腕に止まって言う。
 そのどこか嬉しそうな様子に、黒鵜も温かな気持ちになり、浮かべていた笑みを深めた。
 二人は久しぶりの逢瀬に会話を重ね、白琳は冬の間のことを話す黒鵜の話に聞き入っていた。

「あっねえ、白琳。君に渡したいものがあるんだけど」

「ん、何じゃ?」

 黒鵜が思い出したように、腰の帯に括り付けてあった袋から、紅い紐に水晶の飾りが付いた腕輪を取り出す。

「・・・・・・これは」

「綺麗だろう?僕が石を加工して、飾り紐は夕菜(ゆうな)が編んだんだよ。君のことを想いながら僕と妹の二人で作ったんだ。君は僕達兄妹の恩人であり友だからね」

 曇りのない水晶と鮮やかな紅に見とれていた白琳は、黒鵜の言葉に勢いよく顔を上げた。

 一年ほど前――黒鵜の妹である夕菜が病名の分からぬ病に倒れ、生死の境を彷徨う妹を助けるために、決死の思いで山に入った黒鵜の願いを叶えたのが白琳だった。
 傷や泥にまみれた姿でたどり着いた黒鵜の前に、赤朽葉と萌黄を合わせた着物を着た白林が姿を現し、黒鵜に数種類の薬草と己の涙を渡すと、それを煎じて飲ませるように言った。
 藁にも縋る思いで薬草を煎じ、与えられた涙を混ぜたものを夕菜に飲ませると、うなされる程だった熱が引き、翌日には意識を取り戻したのだ。
 弱くはあったが、その瞳に生命の光が宿っているのを見た瞬間、黒鵜は堰を切ったように涙を流した。
 夕菜の体調が安定した後、黒鵜は礼をするためにもう一度山に入った。そこで言い伝えにある「神」である白琳に迎えられ〝彼女〟が本当の「神」ではなく、長い年月を生きた橘の樹の精であることを教えられた。

 それからというもの、一人はつまらないという白琳の話し相手になるために度々山に入り、村のことや妹のことを話して聞かせた。
 しかし、冬の間は雪が深く、白琳も眠りにつくため、山に入ることが出来ない。
そこで、冬の間に黒鵜と夕菜が白琳の為にと心を込めて作ったのがその腕輪だった。

「さあ、人型になってくれないか。もちろん、受け取らないとか言わないよね?」

 うろたえる白琳に、満面に笑みを浮かべた黒鵜がやや首を傾げて言うと、白琳は「うっ」と言葉を詰まらせて視線を泳がせる。

「ほら、早く」

「・・・・・・・・・」

「いいじゃないか。何かが減るわけでもないし、ここには僕しかいないんだから」

「・・・。・・・・・・・・はあ」

 何かを言いたそうにしていた白琳がため息を付くと、黒鵜は勝ち誇った表情をして、気が変わらないうちにと白琳に背を向けた。
 僅かな静寂の後、地面を踏みしめる音がして後ろを振り向けば、鳥の姿のときの色彩を纏った白琳が、黒鵜と視線を合わせないようにした状態で佇んでいた。
 美しい緑青色の瞳が向けられていないことに不満を覚えたが、彼女の性格をよく知っているため、言葉もなしにその手を取って静かに腕輪をはめた。
 白琳の白い肌に紅がよく映え、黒鵜は満足げに笑った。

「・・・気に入ってくれた?」

 恥ずかしいのか、頬を赤く染めたまま言葉を発しない白琳に問うと、おずおずと視線をこちらに向けて、はにかむように微笑んだ。

「・・・・・・・・・ああ」

 腕輪をつけた手を抱くように胸に当てて「大切にする」と呟く。
 それを見た黒鵜は、今更ながらに照れくさい気持ちになり、前髪をくしゃりと掻き上げて目を細めた。
 
 穏やかな日差しの中、二人の間に笑みが消えることはなかった。
 
*   *   *
 
その村には、古くからの言伝えがあった。

『村を守る裏山には、神がいる』

 村が何かしらの災厄に陥った時、裏山に分け入れば、いつの間にか大きな橘の樹の下に立っているという。そして、その樹に救いを求めると、村の災厄は去るのだと。
 興味半分で山に入ろうとすれば迷わされ、知らずしらずのうちに裏山の入り口に戻される。
何かを隠すかのように、本当に困った時に心から助けを求める者しか、そこには行くことが出来ない。
そして、導かれた者だけが目にすることができるのだ。
美しい緑青の瞳と、紅が目を引く水晶の腕輪。『神』が愛しげに見る、季節を問わず橘の根元に咲き乱れる、梔子色の花を。
だからこそ、村の者達は噂する。

――『裏山の神は、梔子に恋をした』のだと。

2010/08/24 (Tue)

ザァァ――
 月が雲に隠れ、闇に満ちた森の中を一陣の風が駆け抜ける。
 静寂に包まれた森は、深い闇に怯えるように唯ひたすらに沈黙を守り、風の音以外そこに響くものはなく、重苦しい気配がその場を支配していた。 

『ギャァア!』

 突如、甲高くひび割れた、生き物が発したとは思えない声が、広い森に響き渡った。
 それは丸い身体が黒い毛で覆われ、毛の間からは血の色をした1つの紅い瞳が覗き、ギョロギョロと絶え間なく動いている。
また、生えている4本の足には、鋭いツメが3つほど付いていて、傷つけられれば只では済まないことは明らかだった。
――その姿は、正に異形。
 声の主は、全身から血を滴らせ、木々を薙ぎ倒しながら森の奥へと逃げていく。
 
シャラン―・・・
 
 悲鳴と木々が薙ぎ倒される音が響く中、静かな、それでいて凛とした鈴の音が風に紛れ、闇の中から2つの影が現れる。
 風を斬るように駆けるのは、黒を纏う青年と白を持つ狼。
 彼らは、足元も見えないはずの森の中で、危なげもなく確実に異形のモノ――妖魔を追っていく。 

「・・・・・・ロウ」

 青年が相方の名を呼べば狼、ロウは青年と一瞬視線を交え、走るスピードを上げると、妖魔の前に回りこんだ。
いきなり前方を塞がれた妖魔は、邪魔者を排除しようと黒い毛を伸ばし、鞭のように、牙を剥くロウへと叩き付ける。
 その攻撃を、横に飛ぶことで回避したロウは大地を蹴ると、妖魔の紅い瞳を鋭いツメで引き裂き、身体に牙を突き立てた。

『グギャアア!!アア――ッ』

「・・・・・・」

 ロウを振り落とそうと暴れる妖魔の攻撃を青年は軽々と避け、妖魔の息の根を止めるべく、刀を上段に構える。
 その刃は現れた月の光に照らされて、冷たい光を放っていた。

「・・・魔よ、その罪と闇を持って消え去るがいい」

 青年の低く、怜悧さを感じさせる声が、感情を灯さずに発せられ、彼の青い瞳が眇められる。
妖魔を映すその瞳は、見るものを凍りつかせてしまうのではないかと思うほど冷たい色を宿し、それと同時に深い憐れみを浮かべていた。
 
 
 神が世界を創造してから幾千年。
 楽園と呼ばれていた世界は崩壊を始め、人々は希望を忘れて絶望の淵に立っていた。
 人々の負の感情は闇となり、その闇が『魔』を生んだ。
 実体の持たない『魔』は互いに引き寄せあい、一つの実体のある『妖魔』へと姿を変えて、人々を襲うようになる。
 恐怖と絶望に支配された世界を憂いた神は、己の分身を大地に降ろし、世界の救済を命じた。
 
 世界が安寧を取り戻す、その時まで――・・・

「ギャアアッ・・・ガグウウウ」

 妖魔の鞭が大地を抉り、攻撃を避け続ける敵に容赦なく襲い掛かる。

「・・・・・・」

 それを見た青年は、頬を掠める攻撃にも微動だにせず、そこには何も無いかのように静かに目を閉じる。
そして、彼が軽く息を吐き、再び目を開けたときには、妖魔の姿だけを色彩が増した青い瞳が捉えていた。
 揺るぎない光を宿した瞳をそのままに、青年は襲ってきた鞭を刃で弾き返し、体勢を低くすると、彼の刀の鈴が小さく響いた。

「・・・黒琉(こくりゅう)が使い手、アレキエル。神との契約により・・・いざ、参る!」

 その言葉と共に、怒り狂い闇雲に攻撃してくる妖魔の足元まで、一瞬で移動した青年は、上段の構えのまま素早く刀――黒琉を滑らせ、前足を斬り捨てる。
ドズンッ――
 前足を失くした妖魔は、身体を支えられず前へと倒れこみ、身体が地面に叩き付けられた振動で、大地が揺れた。

『ガァアアア――ッ!ギャアァ!』

耳障りな叫び声を上げ、毛の鞭で木を薙ぎ倒す妖魔に止めを刺そうと、鞭を避けながら青年は黒琉を振り上げた。

『グァァァアアア!』

「・・・っ!」

青年が黒琉を振り下ろそうとした瞬間、彼の背後から黒い槍が飛来し、それを避けた青年の隙を狙って妖魔が鞭を振り上げる。

「・・・・・・チッ」

「・・・アレクっ!」

 ロウが妖魔から飛び退き、青年――アレクの許に行こうとするが、妖魔の妨害を受けて近付くことが出来ない。

(くそっ・・・)

 素早く回り込もうとしても、どこからか黒い槍と鞭が飛んでくる。
 ロウが低い唸り声を上げている一方、アレクは立て続けに鞭と槍が襲い、体勢を立て直すことが出来ずにいた。
 刀と身体を使い致命的な傷は避けていたが、小さな傷があちこちにできている。

「・・・っ、はあ!」

 攻撃を避けつつも気配を探っていたアレクは、一瞬視線を上げ、飛んでくる槍を落としながら一本の槍を掴み、その反動を利用してそれを森の暗闇へと投げ返す。

ドチュッ

「ビィィイイイイ」

 槍が刺さる音と空気を震わす声がすると、妖魔の目が森の方を見て、何かを呼ぶような音を響かせた。
 すると、地面を這いずる音と共に、闇の中からスライム状の妖魔が姿を現し、傷を負っている妖魔の方へ触手を伸ばすと、そのまま己の許へと引き寄せた。

「ギャァ、グッ、ギイイイイイ」

覆いかぶさるようにして、二体の姿が合わさると妖魔は奇声を発し、その身体をボコボコと歪に膨れ上がらせた。 
アレクはその行動に驚ため、横から襲い掛かった鞭の攻撃を避けることができず、咄嗟に刀で防ぐが、その力に耐え切れずに空中へと弾き飛ばされる。

「くっ・・・ロウっ!」

 アレクは反射的に信頼する相棒の名前を呼び、刀を持っていない左手を伸ばす。
妖魔の妨害がなくなったロウは、アレクが空中に放り出されるのを見て、強く大地を蹴り、伸ばされた左手が首に回されるのを感じながら、彼の身体を背で受け止めた。
トンッ
軽い音を立てて着地したロウを一撫でして、その背から降りたアレクは、変化を続ける妖魔を忌々しそうに見つめる。
 彼の隣に立っているロウも彼と同じように目を眇め、ため息を吐いた。

「再構築するつもりか・・・・・・。おい、アレどうするんだ」

 ロウが「厄介だぞ」と呟くと、アレクはロウへと視線をやり、構えていた刀を下ろした。

「・・・どうするも何もないだろう。完成する前に切り捨てるまでだ。・・・そうだろう?」

 アレクは無表情だった顔に薄く笑みを浮かべ、手の平に軽く刀を滑らせると、切れたところから血が流れて、その紅が黒琉の銀色に輝く刃を彩っていく。

(・・・また、始まった)

 彼の行動にロウは再度ため息を吐くが、諦めたようにアレクから離れ、自身の周りに結界を構築した。
こうなってしまっては、誰にも止められない。
視界の端でそれを見届けると、アレクは人差し指と中指で黒琉の刃に触れる。

「起きろ、黒琉」

 アレクは命じるように言葉を紡ぎ、黒琉を顔の前に掲げた。すると、風が彼を中心に吹き荒れ、鋭い刃と化した風が、近くにある木を切り倒していく。
 風は勢いを増し、風によって切り刻まれたものが、座っているロウの脇を、ものすごいスピードで通り抜けていった。
 ロウは毎度のことながらやり過ぎだ、と呟きながら、その様子を眺める。

(アレク――・・・)

 目を閉じ、祈るように刀に額を寄せる彼の姿は、風に巻き上げられるままに乱れる髪すらも、神秘的に見せる。

「・・・まったく、・・・・・・神も、厄介なヤツを選んだものだ」

 自分も人のことは言えないが、神に直接創られたものは「常識」を逸脱する。
 〝それら〟はそれぞれに特化した特徴を持って生まれるのだが、ロウは選定や選別に優れ、神の求めた者を見つけるのが使命だった。
 人には少なからず感情という心があり、ロウはそれを色として視ることが出来る。
 その色は個々で少しずつ違うのだが、その中でもアレクの色は「異常」で、視たときは思わず同類だと思ってしまったほどである。
共に過ごしてみれば、色に限らず、ヤツは身に宿す力はもちろん、容姿、頭脳、運命すらも「常識」を逸脱していたのだ。
 本来、人としてはありえないモノに驚愕し、恐怖すら感じた自分。
 だが、それでもアレクに黒琉を託し、彼の刻を止めてまで神の代行という役目を負わせたのは、自分の持つ力が強く訴えていたから。
――このことを任せられるのは、彼しかいないのだと。
 
キィィン――
時間にすれば、ほんの数秒だったのだろう。
 高く透き通った音が響くと同時に、荒れ狂っていた風は止み、隠されていた青氷の瞳が現れた。銀色だった黒琉の刃は漆黒に染まり、僅かな光を受けて、その輪郭が浮かび上がっている。

「・・・さあ、さっさと片付けようか」

 アレクは、まだ構築を繰り返している妖魔に目を向けると、「ロウ!」と声を上げて黒琉を左手に持ち直す。

「ったく。分かってるよ!」

 ロウは駆け出すと、妖魔の周りに結界を張り、同時に方陣を展開した。
 幾多にも展開された陣の中心にアレクは立ち、黒琉を天に向かって掲げると、刀の柄に付けられた鈴が自然と音を奏でる。
 それを確認すれば、アレクは瞳を伏せ、黒光りする刃にそっと触れて、静かに言の葉を紡ぐ。

《・・・我が崇めし神よ、理に繋がれし獣を解き放ち――・・・》

 淡い光がアレクと方陣を照らし、言葉が続くにつれて、その光は強くなっていく。

『グァアアッ!』

 アレクの言葉を遮るように苦しむ妖魔の声が響き、変貌した身体を結界へと叩き付けて、自分を捕らえる壁を壊そうとしていた。

(・・・・・・・予想以上に再構築が早い)

 夜であるためか、闇の濃度が濃かったようだ。
 ロウはそのことに舌打ちをし、敵意を滲ませた視線を、結界の中で足掻く妖魔に向けた。

『ギギギギッ』

 壊れない結界に、妖魔が怒りと苦しみを込めて鋭いツメを何度も振りかざすと、ツメが透明な壁に食い込み、ピシリ、と結界に亀裂が走る。

(やばい――!)

 ロウは結界を修復しなければと思いつつも、各所に展開させている方陣を維持するために動くことができず、奉上の言を捧げるアレクに向かって叫んだ。

「アレク!」

 急かすロウの声に目もくれず、アレクは口元に笑みを浮かべた。

(・・・っ。アレクのヤツ!)

 普段は無表情のくせに、戦いになると感情が表に出る。
 それも、危機的な状況であるほど、その戦いを楽しむ傾向があるのだ。
 なんて面倒な性格なんだっ!と心の中で叫びながらも、アレクから余裕を感じたロウは、彼のすることを黙って見ていることに決めた。
 ロウが諦めの姿勢をとったことに気付き、アレクはその笑みを更に深くする。
アレクにはロウのその行動が、自分に対する絶対の信頼からくるものだということを知っていたから。

《――心を、夜を支配する月に捧げ・・・》

 アレクの声と鈴の音によって方陣が互いに共鳴を始め、彼らの足元に巨大な『場』をつくる。
 それは彼らにとっての防御であり、攻撃でもある空間。

『ガアァァァ――ッ!』

パリ――ンッ
『場』が形成された途端、妖魔の力に耐え切れなくなった結界が、高い音を立てて崩れた。
それを耳で認識したアレクは、焦ることなく妖魔に目を向け、残りの式を完成させるべく、声を響かせる。

《・・・――我が名の下に契約を》

『――グォォォオオオッ!』

 結界が壊れ、自由となった妖魔は、素早い動きでアレクへと襲い掛かり、アレクは黒琉を構え、口に笑みを浮かべながらそれを迎え撃つ。
 妖魔がツメを振り下ろすのと同時に、アレクは黒琉を前に振り上げた。

《神の御名において、封印されし力を解放せよ!》

――ザンッ
最後の言葉が紡がれると、鋭い音と共に青白い光が瞬き、すべてを白く染め上げる。
 
「終わりだ――・・・」
 
 光が収まった後には、アレクの静かな声だけがその場に響いた。
 
*   *   *
 
「お疲れさん、アレク」

 黒琉を一振りして鞘に仕舞うアレクに、ロウは声をかける。
 アレクが斬った妖魔は、霧のように霧散し、跡形もなく消え去っていた。

「その傷以外、大きな怪我はないか?」

「・・・・・・ない」

「そうか、それならいい」

無表情に戻ったアレクを、笑いながら尾で軽く叩き、ロウは座るように指示する。
アレクがそれに素直に従い、切り倒された切り株に腰を下ろすと、ロウは方陣を展開させ、静かに金色の瞳を閉じた。

《我が名は制約を解き、誓いを立てし者の癒し手とならん》

 そう唱えれば、暖かな光がアレクを包み込み、ゆっくりと消えていく。

(・・・・・・暖かい)

 光が完全に消えると、顔にあった傷がなくなっていた。
 アレクはそれを確かめるように、頬や左手に手を滑らせて、ロウに目を向ける。
 その視線を意識しながらも、ロウはアレクの周りをぐるりと一周歩き、他に怪我がないかどうかを調べていく。

「・・・どうだ?」

 「どこか、おかしなところはないか」とロウはアレクを見てやる。
 アレクはそれにまっすぐ視線を返すと「一つだけ」と呟き、ロウはどこか調子が悪いのかと彼の言葉に意識を集中させた。

「・・・・・・暖かくて、綺麗だった」

「・・・、・・・・・・は?」

 意味が分からない。
 アレクが意味不明なことをいうのは今に始まったことではないが、こんなに脈絡のないことを言うのは珍しい。

「何が・・・。いや・・・そうじゃなくて・・・・・・」

 アレクは困惑気味のロウを、感情が燈っていない瞳で見つめ、優しく頭を撫でた。

「・・・冗談だ」

「・・・・・・アレク。無表情で冗談を言われてもだな・・・」

「・・・体の調子は良い。ありがとう」

 戦いの時とは違った、柔らかい笑みを浮かべて、アレクは言う。
 その笑みを見たロウは頭を撫でられながら、深くため息を吐くと「アレクだしなぁ」と呟いて、しばらくの間アレクの好きなようにさせることにしたのだった。
 
 数分後、アレクがロウの身体に顔をうずめるようにして寝息をたて、ロウが呆れてため息を吐くのはまた別の話。
 
 
・・・――暖かいのは光、綺麗なのは
光に照らされ白銀に輝く君の姿。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
またやってしまった・・・・・・
世界観はまた独自のもので、今までの話と関係はありません。
まあ、他の物語もそうなんですけど。
あー新しいのを書かなければいけませんねえ。
カレンダー
03 2025/04 05
S M T W T F S
1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30
フリーエリア
最新CM
[12/26 尚]
[08/31 人]
[02/29 尚]
[05/20 尚]
[02/18 尚]
最新記事
最新TB
プロフィール
HN:
彩月 椿
年齢:
34
性別:
女性
誕生日:
1991/03/29
職業:
学生
趣味:
読書
自己紹介:
自然をこよなく愛し、たまに小説なんかを書くマイペースが自慢な人間です。
バーコード
ブログ内検索
最古記事
(02/22)
(03/16)
(04/26)
(04/30)
(06/27)
カウンター
アクセス解析
忍者ブログ [PR]
○sozai:グリグリの世界○ Template:hanamaru.