2008/01/27 (Sun)
一通り食べ終わり、食器を片付けてから、鈴は疑問を口にした。
「ねえ、琉砂。私の名前を変えるとかなんとか言っていたわよね。どうして?」
そう。名前などいちいち変えなくとも、同じ名前などいくらでもいる。わざわざ変える必要などないはずだ。
不思議そうに鈴が首をかしげると、琉砂は苦笑した。
「それはな、お前しかいないからだよ。その名前を持っているのが」
「・・・・・え?」
私しかいない・・・・?
「・・・・・どういうこと?私しかいないって、どういう」
「さあな。だが、皇帝が禁止したんだよ。ある日突然な」
「お父様が・・・?」
「そう。だから、お前ぐらいの歳の子供には『鈴』という名前のヤツはいないんだ」
何故、わざわざそのようなことをさせたのかが分からない。
考えがぐるぐる回っていた鈴に、話を聞いていた紅簾が口を開いた。
「せめてもの贈り物だからだろう」
「紅簾・・・?」
「いくら混乱を避けるためとはいえ、娘に不自由な思いをさせてしまう。満足に抱きしめてやることもできない。だからせめて名前だけでも、たった一つのものを、と思ったのではないか。子供を愛していない親などいないからな」
たった一つのものを・・・・・?
「まあ、そうだろうな。すべての親がそうとは限らないが、少なくともお前の親は愛していると思うぞ。というか、むしろ愛しすぎだ。親バカの域に入るぞ」
父の想い。本当の意味など知らなくとも、私だけのたった一つのものがある。
――こんなに嬉しいと思わなかったなあ・・・・・
「鈴」
「ん?なに、紅簾?」
「顔がにやついているぞ」
えっと鈴が手を頬に当てる。どうやら無意識のうちに笑っていたようだ。
「と、まあそういうわけで、鈴には名を変えてもらわないといけないんだが・・・・・・なにか希望はあるか」
「・・・・・」
「まあ、そんなに急いで決めなくともいいんだが」
名前。
「・・・・・六花」
「雪・・・・か」
雪の異名は六花。穢れ無き六枚の白き花。
忘れてはいけないから。忘れたくないから。あの日のことを。
その真意を読み取った二人は、そっと顔を見合わせた。
「では・・・六花、紅簾。現状を報告する」
琉砂の言葉に、二人は無言で頷く。
それを見た琉砂が、少し前かがみになって話し始めた。